秘宝館のような教科書
私が医学生のときに学んだ泌尿器科の教科書(『小泌尿器科学 改訂第5版』楠隆光原著・園田孝夫改訂、金原出版、1978年)には、性風俗の珍品・逸品を集めた「秘宝館」のような写真が満載されていました。
もっともショッキングだったのは、「重複陰茎」の写真です。説明には「陰茎全体の重複と、亀頭のみの重複とがある」とありますが、写っているのは前者で、立派な大人の陰茎が二本、左右に首を振るように生えています。やや不鮮明な写真で、陰毛のあたりが濃い影になっていて、逆に露出した亀頭ははっきり写っており、まさに秘宝館にふさわしい淫靡な写真でした。
その下には「埋没陰茎」の写真が出ていました。これは小児の例で、陰嚢は正常ですが、その上にあるべき陰茎が皮膚に埋没し、亀頭や尿道口さえ判然としません。
さらに「嵌頓包茎」(反転した亀頭包皮がもどらなくなった状態)の項には、「瘢痕化した嵌頓包茎」として、亀頭が首を絞められたように膨れ、黒光りする組織が盛り上がっている写真が出ていました。説明には、「亀頭部は鬱血のため硬く腫脹してくる。甚しい場合には包皮口で絞扼された部位が壊死に陥る」と、読むだに痛そうな記述があります。
「持続性勃起症」の写真も掲げられていました。仰向けの股間から、ミサイル発射台のように陰茎が斜め上方に屹立している写真です。これは勃起が数日から数週間続くもので、原因は白血病などの血液疾患、海綿体への悪性腫瘍の転移、脊髄損傷などがありますが、原因不明のものも多いようです。ED(勃起不全)の人からすればうらやましいように思えるかもしれませんが、説明には、「正常勃起と異なり、快感の代わりに不快感あるいは痛みを伴う」とありますから、決して望ましいものではないようです。またこの病気の場合は、陰茎海綿体のみの腫脹で、亀頭部は大きくならないとあります。なるほど、写真の陰茎も先端はこぢんまりとしていました。
ちなみに「早朝勃起」(いわゆる朝勃ち)は、睡眠中の副交感神経の興奮と関係があり、朝にかぎらず夜間にも見られる生理現象です。心理的なEDの場合は、夜間または早朝の勃起は起こるので、EDの診断には、それがあるかないかが重要な要素となります。
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