mysteryという単語を辞書で引いてもらえれば分かるように、ミステリの本質は「謎」である。「謎」の持つ牽引力で、ページをめくらせるタイプの小説、と言っていいかもしれない。とはいえ推理クイズではないから、謎さえあれば小説部分はどうでもいい、というわけでもない。
それでもやはり、ミステリは、「謎がなければ始まらない」のである。
そしてその謎は、魅力的であればあるほど良い。また、できる限り、物語の冒頭で示されるべきである。
どこかのオフィスに死体が転がっていて、わらわらと野次馬が周りを取り巻き、「さあ、犯人は誰でしょう?」と問われても、「どうせオフィスに関連のある人が犯人なんでしょ」と開き直られたら終わりだし──実際問題、登場人物の誰かが犯人なのである──、現場に愛想がない。また、読んでも読んでも事件が起きないと、これは本当にミステリなのか? と不安になってしまう。
もちろん、物語の初っぱなに事件を置くのは、なかなかに難しい。前段の説明や登場人物の紹介も、ある程度は必要になる。
それを解決する方法の一つが、「プロローグ」だ。
多くのミステリで、冒頭にプロローグが配置され、ショッキングな場面が描かれているのは偶然ではない。要は、「これから、しばらく読んでもらうと、こういう事件が起こりますよ」というのを、先にお知らせしておく役目を担っているのだ。
つまり、最初の「引き」や「つかみ」を作るわけである。おお、こんな凄いことが起こるのか! と印象づけられれば、しばらく何も起こらなくとも、読者は作品に付き合ってくれる。ゆっくりと丁寧に、事件の背景や人物を描けるというわけだ。
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