読みたい人、書きたい人のミステリ超入門

第2回 そもそも、「ミステリ」ってどんなもの?(2)

何百本という応募原稿を読んできて、よく「惜しいなあ、もっと面白くできたのに」と思うときがある。それは突き詰めれば、「ミステリ的な手続き」に不備があったり、いわゆる「お約束」を踏まえていないことに起因する。
電子書籍文芸誌「yom yom」に掲載中の人気連載を出張公開。

 また、後で詳しく述べるが、不可思議な状況、常識では考えられない事件現場というのも魅力の一つになる。
 どうやって行ったのか? あるいは、なんでこんなことになったのか?

「山高帽のイカロス」(『御手洗潔のダンス』所収・島田荘司)という短編は、日頃から「人間は空を飛べるはずだ」と言い、そういう絵ばかり描いていた画家が、四階のアトリエから忽然と姿を消し、地上二十メートルの電線に乗っかった死体となって発見される、という謎が提示される。
 一体、何がどうなったらそんなことが起こるのだろうと思うし、空を飛ぶことを夢見ていた画家が、空飛ぶ死体となって発見されるというのは、非常に魅力的でわくわくする謎だ。
 こんなふうに、謎が大きく、不可解であればあるほど、読者はその真相を知りたくて、ページをめくることになる。

 そして、謎解きの手掛かりとなる伏線がないと、ミステリにはならない。伏線がなければ、「推理」できないからだ。伏線というのは、解決の根拠や手掛かりとなる事実・出来事を、事前に描いておくことである。何の根拠もなしに犯人は特定出来ないし、犯人がいきなり自白したところで、読者は白けるだけだろう。 「ヘンゼルとグレーテル」という童話では、家に帰る目印として道すがら小石が撒かれるが、その小石のようなものだと思ってもらえればいい。小石を丁寧に拾って遡っていけば、自然と真相にたどり着く、というわけだ。

 例えば、犯人を限定する要素が「左利き」であったとする。だとしたら、解決に至る過程で、その犯人が左利きである、ということが分かる記述がどこかになければならない。なにも、「○×は左利きだった」と書く必要はなく、左手で箸を使う場面があるとか、右利き用の道具を使いにくそうにしているとか、そういったことでいい。そして、できればそれらを複数回示しておく。毎回違った見え方──箸であるとか、筆記用具であるとか、ハサミの使い方であるとか──にするのは言うまでもない。一度書いた伏線をちゃんと覚えていてくれるほど、読者は親切ではないし、そこまでの記憶力も期待してはいけない。

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新潮社
2018-01-19

この連載について

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読みたい人、書きたい人のミステリ超入門

新潮社yom yom編集部 /新井久幸

ミステリ作家志望者、必読! 「新潮ミステリー倶楽部賞」「ホラーサスペンス大賞」「新潮ミステリー大賞」など、新潮社で数々の新人賞の選考に携わってきたベテラン編集長が考えるミステリの読み方・書き方の<お約束>とは――。電子書籍文芸誌「...もっと読む

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