生徒全員と否応なく抱き合った30代の頃の話

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は、森さんが介護学校に通っていた頃のお話です。介護から学んだふれあいの極意とは…?

2018年、私は48歳になる。48歳とは、ドラクエの呪文くらい遠かったグルコサミンやエストロゲンといった言葉が身に染みる年齢だ。介護の現実も、ドラクエのモンスターよろしく背後に迫ってきている。介護される側、介護する側、両方だ。

30代のとき、介護学校に通ってみた

30代前半の頃、失業して時間を持て余した私は「自分に一番似合わないことを学んでみよう」と突如決意し、介護学校の門を叩いた。引きこもり体質の自分に、無意識に危機感を覚えたのかもしれない。

一昔前はネガティブなイメージだった引きこもりだが、昨今は意外にかろやかでふわっとしている。在宅で会社勤務も可能だし、「OK! グーグル」で一日が終了する人がいてもおかしくはない。さみしくなったらペットを飼えばいいし、ペット不可ならAIBOを買えばいい。

「でもAIBOって、ぬくもりはないんだよね」

テレビの情報番組で特集された、限りなく犬に近いAIBOを見てつぶやく私に、

「そうだね」

と旦那さんは切なげな顔をし、やがて明るく、

「でも、そのうち人間型ロボットもできるかもよ。AIBU、なんてね」

と言った。AIBUか。ふむ、と感心したが、体温や息づかいを人間と同等に再現し、家庭内に持ち込めるのはまだ先の話だろう。アクティブな引きこもりもありだが、やはりぬくもりやふれあいは、外へ探しに出ねばならない。

毎日、誰かしらと抱き合っていた

話は冒頭に戻るが、ぬくもりやふれあいの経験を得るひとつの方法は「介護」だ。私は非モテ人生だったので(過去記事参照)、介護学校に通いはじめた当初も、ぬくもりやふれあい経験は乏しかった。しかし、介護学校にはそれがあったのだ。だって毎日が、オムツ交換、トイレ介助、入浴介助、清拭、と相手ありきのプライベートプレイもとい日常生活に寄り添う授業が満載なのですから。

介護を軽んじているのではない。下は20代、上は60代の男女が至極真面目に取り組んでいるのだ。当時、私の父も入院中だったし、他の生徒でも身内が病床にいる方がいた。命の危うさと儚さに直面していたからこそ、私達生徒は真剣に介護に向き合い、真剣に抱き合っていた。

いや、冗談ではなく本当に毎日毎日、誰かしらと抱き合っていたのである。

例えば、

「今日は誰とやろうかな」

「今日は××君とやりたい。彼は背が高いしマッチョだから」

といった、往来で語っていたらヤリマンと勘違いされそうなことを日々論議する。ちなみに上記会話を介護的に訳すと、

「今日のロールプレイング授業は、誰と組もうかな」

「今日は××君を選びたい。背が高くガッチリした男性を介護するのに、女性の体力を最小限に抑えるコツを習得したいから」

となる。

20代男子とのシャンプー合戦
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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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kuros1ba |アラフィフ作家の迷走性活|森美樹|cakes(ケイクス) https://t.co/lK7NfO7Lwn 赤ちゃんみたいに小さく可愛くなれたらいいのにね 2年以上前 replyretweetfavorite