メゾン刻の湯

銭湯に置き去りにされた全裸の少年

「そいつ捕まえて!無銭飲食(タダメシ)……じゃない、無銭入浴(タダブロ)なんだ!」
突然「刻の湯」の入り口から逃げ出してきた裸の少年。この少年は誰なのか?母親はどこに消えたのか?
社会からハミ出たくせものたちの集まる銭湯シェアハウスが舞台の傑作青春小説、第11話です!

 近所のスーパーに買い出しに出かけた帰り、僕は白い袋を両手にぶら下げながら大通りを歩いていた。沿道に生い茂るプラタナスの葉はむくむくと膨らんで、緑の手で重たげな空を押し上げている。上を向けば、吹き抜ける風までもが緑に染まって見えた。

 この家で暮らし始めてから、目に映る景色はガラリと変わった。歩いていても、足の不自由な人が目に留まるようになったし、解体されかけの家や、まだ瑞々しく燃えそうな廃材なんかに目が向くようになった。以前の僕の目玉がスルーしていたものばかりだ。生活が変われば、世界は風呂敷が広がるようにして拡張される。

 刻の湯の前の通りまで来ると、入り口になにやら人だかりができていた。なんだ、芸能人でも来てるのか?

 不思議に思って近づいた途端、突然人垣が崩れて中から何かが飛び出してきた。僕は驚いて思わず足を止めた。

 それは全裸の子供だった。必死の形相でこちらに向かって駆けてくる。その背後で暖簾がパッとはためき、今度はゴスピが飛び出してきた。

「マコさんっ!」

 彼は僕の姿を認めると大声で叫んだ。

「捕まえて!そいつ、無銭飲食(タダメシ)……じゃない、無銭入浴(タダブロ)なんだ!」

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メゾン刻の湯

小野 美由紀
ポプラ社
2018-02-09

この連載について

初回を読む
メゾン刻の湯

小野美由紀

”正しく”なくても”ふつう”じゃなくても懸命に僕らは生きていく。「傷口から人生」の小野美由紀が銭湯を舞台に描く、希望の青春群像劇! どうしても就活をする気になれず、内定のないまま卒業式を迎えたマヒコ。住む家も危うくなりかけたと...もっと読む

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