◆違う人生をきみとやり直す、と家を出てきた男の不可解な行動
「すでに妻子がいたのに、ものすごくしつこく交際を迫ってきたんです。『会ってくれないならストーカーになる』と毎晩のように家の近くまで訪ねてくる。『きみと出会おうが出会うまいが、妻とはもともと子どもが20歳になったら別れる前提でいた。それを早めるから』『違う人生をやり直したい、つきあってほしい』と毎日、熱心に言ってくるんです。それが3か月も続いたので、私もつい本気なのだなと思ってしまいました」
それからは頻繁に会うようになった。そして半年後、ふたりの共通の知りあい夫婦のもとへ出かけ、離婚届の証人としてサインしてもらった。離婚届にはまだ彼の名前しか書いてなかったが、マナミさんとしては離婚に向かって進んでいることが確認できたわけだ。
妻とは離婚の合意はとれている、あとは細かい条件交渉が残っているだけと彼は言い、引っ越し屋を使って自宅から荷物を運び出し、自転車まで持ち出して、「当面、落ち着くまでの間……」と彼女のマンションへとやってきた。
「それからは結婚に向かって一直線でした。私の父にも会い、エンゲージリングをもらい、ホテルのブライダルフェアにもいくつか出かけました。彼の知人にも紹介され、お祝い金まで頂き、食事会まで開いてもらった。ここまでされて信じないほうがおかしくないでしょうか」
ところがそれから数か月たっても、なかなか離婚が成立しない。彼女が様子を尋ねると、「全力で話を進めている。早く終わるよう、交渉成立まで兵糧攻めにして生活費も向こうには渡していない」と彼は言う。
そうして一緒に暮らし始めてちょうど1年たったある日、事態は急転直下。
彼女が仕事から帰ると、部屋から彼の荷物がなくなっていのだ。
「私、毎日、彼にお弁当を作っていたんですが、その日は『昼にランチ会議があるから、今日は弁当はいらない』と言って出かけたんですよね。会社に行ったふりをして、私が出かけたあとで家に戻り、荷物を運び出したんです。マンションの管理人さんに聞いたら、『ダンナさんが昼前に戻ってきて、荷物を出し入れするって言ってたから、家具でも買ったんだと思っていたよ』って」
なんと彼は何の説明もなく、突然、元の自宅に戻ってしまったのだ。マナミさんにとっては青天の霹靂である。何がどうなってそうなったのか、まったくわからなかったと言う。
◆犬と一緒に家から出てきて「ここには暮らしていない」と言い張る
数日後、彼女は、彼が家族と暮らす自宅へ友だちについてもらって行ってみた。
「朝、友人と一緒に待ち構えて問いつめたんですが、『着替えを取りに来ただけで、ここには住んでいない』と言うばかり。彼の娘のSNSを見たら、彼がピースして家族で食事してる写真がアップされているのに……。アタマにきて再度、週末、再び家の前に行き、電話をかけて、『出てこないなら家のインターホンを鳴らす』と言うと、犬の散歩を装ってしぶしぶ彼が出てきました。『暮らしていないなんて嘘を言わないで、自分の口で説明してよ』と言っても、『どこに行きまちゅか~?』と犬と話しながらすっとぼけているんです。あまりに腹が立ったので、思わず犬を蹴り飛ばしてしまいました。中型犬でしたが、犬があまりに震えてその場から動かなくなって。犬が彼の大切にしているものの象徴のような気がしたので、確実に蹴りが入ったことで、少しスッキリしました。今思えば、かわいそうなことをしたけど」
埒が明かないので、仲人をしてくれる予定だった、例の知り合い夫婦が間に入ってくれた。
「こうなったらお金で解決するしかない。それで納得して」
そう言われて、マナミさんもやむなく頷いた。夫婦は彼を呼び出し、200万円を支払う誓約書にサインさせ、公正証書にも応じさせたという。だが、マナミさんはそのまま引き下がりはしなかった。
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