メゾン刻の湯

Twitterに流れてきた、行方不明者の捜索願い

冷たい雨が降りしきる夜、認知症のじいさんが行方不明になった。彼の身を案じるマヒコたちは、ずぶ濡れになりながら街を駆け回り、必死の捜索に当たるが……。社会からハミ出たくせものたちの集まる銭湯シェアハウスが舞台の傑作青春小説、第14話です!

それから数週間経ったある日、僕が番台に座っていると、5軒隣の豆腐屋のおばあさんが、小さな背を目一杯に伸ばして僕に声をかけてきた。

「あのね、マコちゃん。ハルエさんってお客さんを、探してるって言ってたじゃない。私ね、思い出したんだけど、5丁目の通りにね、『晴江着付け教室』っていうのがあるのよ」

 えっ、と思わず声をあげた。

「私も最後に見たのはもう10年も前よ。今、まだやっているかはわからない。私も足が悪くなって、あまり、あっちの方には行かなくなっちゃったから……」

 スマホで『晴江着付け教室』と検索しても出てこない。

 僕はその日の夕方、自転車でおばあさんに教えられた5丁目の通りまで行ってみた。辺りはうら寂しく、ほとんど人の気配がない。冷たい風の吹き抜ける通りにぽつぽつと並ぶ店店は、錆び付いた灰色の顔を互いに見合わせ、彼らが昔抱えていたはずの生活の名残を寸分も悟らせなかった。降ろされたシャッターには悪趣味な落書きがされていたが、それも風雨に晒され、主張することを諦めたように醜くくすんでいる。

 僕は、刻の湯のすぐ近くにこんな場所がある事に驚いた。活気の未だ残る刻の湯の周辺とは違い、目の前にある通りは、年老い傷ついた顔をそのままに、周囲に立ち並ぶ豪勢なマンションや住宅に遠慮するように身を縮め、静かにこの状況に耐えている。この巨大な発展を続ける大都市で、もはや自らの居場所がないことを悟ったかのように。

 カラカラと自転車を押して歩いた先に、僕は「春江着付け教室」の白い看板を見つけた。モルタル塗りのアパートの1階で、その上には誰かが今も暮らす気配がある。しかし、シャッターの中からは何の音も聞こえてこなかった。迷ったすえ、僕は店を後にした。今夜、龍くんに相談してからまた来よう、と思いながら。



「◯×町で老人が行方不明になりました。」

 そんな投稿がSNSのタイムラインに流れてきたのは、その日の夜、当番を終えていつものようにリビングでうだうだとムダ話に興じている時だった。


twitter @Kao_Noel74


【行方不明者を探しています】


△□区○×町で老人が行方不明になりました。夜中になっても帰ってきません。上下赤いジャージ、黒のサンダルです。徘徊癖有り。認知症です。見かけた方至急ご連絡ください。お願いします。


 その投稿を見た途端、アキラさんは血相を変えて家を飛び出して行った。

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”正しく”なくても”ふつう”じゃなくても懸命に僕らは生きていく。銭湯を舞台に描く、希望の青春群像劇

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小野 美由紀
ポプラ社
2018-02-09

この連載について

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メゾン刻の湯

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