メゾン刻の湯

障害者だと分かると、みんな”下”に見て安心して話すでしょ 

事故で左脚を失った龍くんは、それによって同情されることも、「心のキレーな人」に見られることも、全て織りこみ済みで生きている。そんな彼に対してアキラが掛けた言葉は――。社会からハミ出たくせものたちの集まる銭湯シェアハウスが舞台の傑作青春小説、第13話です!

 菖蒲の葉がいっぱいに広がる湯船に、勢いよくざぶぅんと浸かる。今日は5月5日の子供の日だ。水面に浮かぶ菖蒲たちは、青々とした葉先を刀のようにぴいんと尖らせている。清涼な香りが鼻腔から湯気とともに侵入して、蒸れる体を内側から涼しくさせた。僕は体を浴槽じゅうに伸ばし、浴場を眺め渡した。

 こうして湯船から眺めていると、どの裸体も、まるで大した差のないような気がしてくるから不思議だ。若いのも年取ったのも、美しいのも醜いのも、色の黒いのも白いのも、背の高いのも小さいのも、全員揃って、ただの一枚の皮袋。満員電車で息をひそめ、触れ合わないよう必死で身を縮めている時にはまるで感じなかったことだ。服を脱ぎ、同じ湯につかるだけで、なぜこんなにも、他人の存在を屹立した一個の生命としてきつく感じられるのだろう。

 湯船から出ようとした瞬間、正面のガラス戸の向こうに龍くんの姿が見えた。龍くんと風呂場で会うのは、これが初めてだ。

 知っていたことだけど、彼の左膝から下にはなんにもなかった。義肢を外した龍くんは、右足だけで立ち、扉に両手で捕まってきょろきょろしている。僕を認めると、彼はにかっと笑って手をふり「マコさあん、悪いけど、ちょっと手伝ってよ」と言った。

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”正しく”なくても”ふつう”じゃなくても懸命に僕らは生きていく。銭湯を舞台に描く、希望の青春群像劇

メゾン刻の湯

小野 美由紀
ポプラ社
2018-02-09

この連載について

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メゾン刻の湯

小野美由紀

”正しく”なくても”ふつう”じゃなくても懸命に僕らは生きていく。「傷口から人生」の小野美由紀が銭湯を舞台に描く、希望の青春群像劇! どうしても就活をする気になれず、内定のないまま卒業式を迎えたマヒコ。住む家も危うくなりかけたと...もっと読む

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adhd_weep #スマートニュース 6ヶ月前 replyretweetfavorite

narumin50000 ー『メゾン刻の湯』 #SmartNews 自ら自分が下から見られてるのが安心出来ると言えるとは、俺も見習うべきかもね https://t.co/3ip4UgPE1g 6ヶ月前 replyretweetfavorite

Miyki_Ono cakes更新!私の”推し”をみんな見てくれ……。 6ヶ月前 replyretweetfavorite

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