「2億円損をする」の根拠とは?
橘玲(以下、橘) 年末年始にかけて、Kindleの無料ダウンロードを14日間の期間限定で行いました。
—— それはけっこう太っ腹ですね。
広瀬桂子(以下、広瀬) マガジンハウスとしても初めての試みでしたが、ひとりでも多くの方に読んでいただきたくてやってみました。
橘 ネットニュースの紹介記事だけ読んでコメント欄にお怒りやご批判が殺到していたので、だったら本を読んでくださいと。その効果なのか、AmazonのレビューやTwitterではポジティブな評価が俄然増えました。
—— どんな意見が多かったのですか。
橘 娘に読ませたい、若い女性に読んでほしい、という意見が、男性からも女性からも増えました。もともと女子高生から20代の若い女性を読者に想定していたので、こういった感想をいただけるのはうれしいです。
—— それにしても、2億円という数字は、若い女性にとっては、インパクトのある数字ですよね。
橘 「2億円に根拠はあるのか」というご批判がたくさんありますが、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(2014年)」では、大学・大学院卒の女性の(退職金を含めない)生涯賃金は、新卒で働きはじめて60 歳で退職するまでフルタイムの正社員を続けた場合、2億1800万円となっています。ちなみに、従業員数1000人以上の企業で働く女性の生涯賃金は2億5000万円を超えています。最近では再雇用などで65歳まで働くのがふつうになっているでしょうから、これに退職金を加えれば、専業主婦の機会損失は3億円という計算もできます。
—— そんなに稼げない、と思ってしまうのも、わかる気もしますが。
橘 もちろん「2億円稼がなければダメ」と言いたいわけではなくて、女性はみんなこのくらいの「人的資本(働いてお金を稼ぐちから)」を持っている、というひとつの基準だと考えてもらえれば。あと、これもあまり知られていないデータですが、厚生労働省の国民生活基礎調査(2010年)によると、いまの日本で年収1000万円以上の収入のある世帯は12.0%、10軒に1軒超なんです。
—— それもけっこう驚きですね。そんなにあるんだ。
橘 年収の高い50代、60代の男性がいる家庭だと思われるでしょうが、さらに興味深いのは、18歳未満の児童のいる世帯にかぎれば年収1000万円以上が16.6%と6世帯に1世帯もあることです。出産するのは30歳前後でしょうから、これは30代、40代の家庭の話です。
それに対して国税庁の民間給与実態統計調査結果(2015年)では、サラリーマンの平均年収は男性で520万円(女性は270万円)、年収1000万円を超える高所得者は男性でも5%程度しかいません。それにもかかわらず、子供のいる6世帯に1世帯が1000万円超の年収があるということは、夫婦ともに一定の収入のある裕福な共働き世帯が増えているからなんでしょう。
このことは、年収1000万円の人よりも、年収500万円の人のほうが圧倒的に多いことから説明できます。先の民間給与実態統計調査結果では、給与収入が年500万円以上は男性で41.1%、女性でも10.5%います。当たり前の話ですが、夫と妻の2人で働いたほうが「世帯収入1000万円」の壁をずっと容易に超えることができるのです。
橘玲が定義する「幸せ」とは?
—— でも現状は、10人の働く女性のうち、結婚を機に3人、出産を機に3人が仕事を辞めてしまう、と本にありますね。
橘 日本は学校を出て働きはじめるまでは男女平等ですが、会社でマタハラされるとか、保育園に入れないとか、子供ができると「差別」を実感する社会なんです。
そもそも男女の社会的な格差を示す「ジェンダーギャップ指数」が世界最低ランクの114位の国なのですから、子供のいる女性が理不尽だと感じるのは当然だと思います。こうした現状に対して抗議の声をあげるのは大切ですが、しかしそうはいっても現状はかんたんには変わりません。そこで、この理不尽な社会でどうすればもうすこし幸福に生きられるのか、一人ひとりが考えるしかないんじゃないか、というのが本書の提案です。
—— 橘さんの考える「幸せ」とは?
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