5.スマイル・ジャパンって? 宗教団体か?
私の名は「伊織」という。
信州でサムライをしていた六瓢(ムヒョウ)家では当主になった者が改名して名乗る。21世紀になっても六瓢家にはそんな古いしきたりが残っているのだ。私に息子がいれば次の「伊織」を継ぐのだろうが、授かった子は娘の浪江ひとりだったのである。
六瓢家を絶やすことはできなかったので、浪江の伴侶となった榊原洋介君は養子に来てもらった。彼が次の「伊織」になるかと思ったが、まだ話していない。名を継がせたいのはやまやまであるが、もはやそんな時代ではない、とも思っているからだ。
そうなると、私が六瓢家最後の「伊織」になる。
と思っていた。
そんなところに、孫娘が「いおり」なのである。
浪江は娘に「アン」と命名し、漢字を「庵」と充てたが、出生届を家政婦の光代に出しに行かせたのがいけなかった。