━取引してはいけない相手がいることを知る━
あまり想像したくないかもしれないが、会社を売るときにトラブルが起こることがある。それは、「反社会的勢力」と「反市場的勢力」との取引である。そんなところと取引なんてしませんよと言うかもしれないが、意図せずに紛れ込んでしまっている場合だってある。
反社会的勢力は、いわゆる暴力団や暴力団関係企業をイメージしてもらえばいいだろう。金融庁の定義では「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団又は個人」(金融庁「主要行等向けの総合的な監督指針」)とある。
反社会的勢力に会社を売却した場合、利益供与と見なされ、売り手の社会的信用や商品・サービスのブランド価値まで失墜してしまうおそれがある。金融庁からの指導を受ける可能性もある。従業員や取引先にまで被害を与えてしまうかもしれない。現在、すべての都道府県において暴力団排除条例が制定されており、これに違反した場合は勧告や公表をされてしまう。関わると大変なリスクを負ってしまうことがわかるだろう。
反社会的勢力についてはいちいち説明されなくても、関わってはいけないことは容易に想像がつくかもしれない。起業経験のない人に分かりにくいのは反市場的勢力のほうだろう。反市場的勢力とは、過去にインサイダー取引や相場操縦行為などを行った企業や投資家をさす。つまり、公正な株式市場を荒らし、その健全性を損なったことのある企業や投資家、と考えればいい。取引先コードを作り、定期的に反社チェック・反市チェックを行っているかもしれないが、普通の企業だとなかなかそこまで手が回らない。
気をつけなければならないのは、反社会的勢力も反市場的勢力も「見た目ではわからない」ということだ。反社会的勢力や反市場的勢力と付き合ってしまうと、上場企業や買収後に上場を目指すファンドなどは、あなたの会社がどんなに良い会社であろうと買うことができなくなってしまうのだ。こうしたトラブルはあらかじめ避けていこう。
━会社経営とはM&Aをすること━
僕の会社は企業の合併・買収を支援する、M&Aのアドバイザリー事業をメインとしている。仕事柄、会社を売ったり買ったりする現場を数多く見てきたが、「会社を売るなんて考えたこともありませんでした」と言う経営者は意外と多い。とくに年配の経営者にその傾向が強い。
ただ、本書を読んでいただいたあなたはもうじゅうぶんに理解していただけただろうが、これはおかしな考えだ。株式会社とはもともと、買ったり売ったりすることを前提とした制度なのだ。M&Aという制度があるように、会社は売却できるし、買収できる。なんら不思議なことはない。
僕のスタンスは、「会社経営とはM&Aをすること」である。後継ぎがいなくて不安に思っている企業があれば、他社と合併して会社を存続させることができる。海外進出を狙っている企業が、すでに海外進出に成功している企業と組めば、短期間で競争力をアップすることができる。弱みを補完し合って強みに変えることもできるし、同業でより上手に商売をしている会社の傘下に入って成長すれば、世の中に提供できる同種のサービスはより豊かなものになる。それらを実現するための仕組みがお金であり、株式なのだ。
売り先を見つけるとき、自分で見つけるか、人に探してもらうかという問題がある。僕としては、自分で探したほうがいいと思っている。自分の会社のことは自分が一番よくわかっているからだ。しかし、契約書の見直しにあたり複雑な交渉が必要だったり、会計面を整備したり、買い手候補の当てがなくて、どこかにアドバイスを頼みたいことだってあるかもしれない。
また、買い手との交渉には独特の技術が必要になる。買い手は経営能力が高いため、チャンスがあればあなたの会社をより低い値段で買い取ろうとするかもしれない。それに対抗するためには、買い手候補が他にも存在することと、今買っておかなければ後々もっと高い値段を払わなければならなくなることを論理的に証明し、オークションに持ち込まなければならない。相談相手が必要なら、遠慮なく僕のところまで連絡してほしい(office@tigala.co.jp)。
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