━「王冠」から「宝石」を取り外した、僕の最初の売却体験━
そういう僕は、15歳で立ち上げたインターネットビジネスの会社(SEOの会社)を19歳のときに総額1億5000万円で売却した(実際には複数回に分けたりとかいろいろあるのだが、細かい話は端折る。詳細は『15歳で起業したぼくが社長になって学んだこと』を読んでほしい)。会社を売ることには正直、抵抗があった。しかし、そんな僕の背中を押したのは、事業を辞めて一度リセットする時間を作りたいという切実な思いだった。
会社が成長するにつれ、僕は自分の会社が手がけている事業の技術面を理解できなくなっていた。ここでプログラミングを学んだり、システム系の能力を伸ばしたりするのも一つの選択肢だ。実際、そうする人もいるだろう。
ただ、僕はそれをしたくなかった。業務がよくわからなくなってきているのに、動いているプロジェクトだけが肥大化していくのが、気持ち悪かった。もっと自分に向いている、やりたいことがあるはずだとの思いがあった。それを見きわめるには仕事に追われる日々から離れ、自分とじっくり対話することが必要だった。
SEOというビジネスに限界を感じていたこともある。ブログのSEO効果が急速に高まっていくのはわかったし(FC2の勢いは驚異的だった)、被リンクをどれだけたくさん準備できるかがSEO会社の実力になってきていたため(今は全然違う時代になってきているが、当時はそんな時代だった)、キャッシュがあるSEO会社には今後太刀打ちできないのではないだろうかという思いもあった。
そもそも、SEOを成功報酬で提供するという成果報酬型の販売形態は、日本で最も早く始めていたのではないかと思っていたが(違ったらすみません)、まだ学生だった僕はマネジメント能力がなく、何度も何度も営業チームの立ち上げに失敗していた(後述するが、学生が大人を雇ってきちんとマネジメントするのは超大変!)。そのため、後発の会社にどんどんフルスピードで追い抜かれ、すでにSEOの会社で上場したり、上場間際になった会社も現れ始めていた。
そんなわけで、僕は会社を売却する道を考え始めた。自分の意志で働いているかというのが本書の問いかけだが、僕は働く意志は強かった。しかし、働く前提条件が違ってきてしまったため、働くルールを自分で作り直したいと思った。そういう意味では、自分の意志で働いているというよりも、自分で作った流れの上で働かされていたのだ。
また、恥ずかしながら、売却を検討した理由として、会社で内紛が起きていたという事実もある。当時、よくわからずに会社を作ってしまっていた僕は、借りたと思っていたお金について(確かに契約書は借用書となっていた)、相手から「それは出資した金だから利益の80%をよこせ」などというわけのわからないことを言われ、それを鵜吞みにしてしまって結構なストレスを受けたこともあった。
それに加えて、幹部メンバーである2人とも揉めていた。2人から「株を33%ずつ無償でよこせ」と言われていたのだ。計66%という巨大な株だ。その会社の資金は全額、僕の自己資金から成り立っているにもかかわらずだ。彼らの言い分としては、自分たちが人を紹介したり動いたりしているのに、今の給料では全然少ない、給料がもらえないのなら株をよこせ、ということだった。
最初のうち、確かにそんなことをOKしてしまったのかもしれないが、資本政策のことなどだんだんわかってくると、僕にとってそんな不合理な話はない(資本政策の無知とは大変恐ろしいものであるということをこの時に思い知った。でも、口約束でもそんな話を進めてしまった自分も悪い。ついでに言えば、確かにその2人は人を紹介してくれたかもしれないが、それが実際に利益につながったことはなかった)。
今でこそ、「簿価は確かにそうかもしれないが、企業価値とはそもそも簿価ではないので、企業価値を第三者に評価してもらいましょう」とか、「では、新株予約権にしましょう」とか、そんな提案もできるのかもしれない。が、当時はまだ『起業のファイナンス』(日本実業出版社刊)なんかも発売されておらず、起業に関する資本政策を学ぶ手段なんて僕にはなかったのだ(噂に聞いたところでは、今どきの若手ベンチャー経営者は皆、起業するときに『起業のファイナンス』を読んで資本政策を勉強しているらしい)。僕は当時、グロービスの経営シリーズなども全巻読破していたが、ベンチャーファイナンス(資本政策)のことは書いてなかった。
性質が悪いのは、相手もまた資本政策に関する正しい知識がないことだ。騙そうとか、僕に損をくらわせてやろうとか、そんなことは全く思ってなかっただろう(と信じている)。もし騙そうとしていたのなら、僕が頑なに拒んだらそれで諦めるはずだ。相手も相手で、正しい知識がないがゆえに本気で揉める。
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