星野源になりたいボーイと小沢健二の全てに意味を持たせたガール

世の女性たちがなんとなく共有する、誰もが知るおじさん著名人たちへのファジーな嫌悪感の正体に迫る新連載「ニッポンのおじさん」。
第6回は、先日『映画ドラえもん のび太の宝島』の主題歌となる新曲「ドラえもん」が解禁され、話題となった星野源さん。彼がほとんど国民的に愛される理由は何か――小沢健二さんに惹かれる女子の矛盾を引き合いに、寄り添い型おじさんの正体に迫ります。

小沢健二という王子様の選民意識

 どこぞのアーティストが大麻所持の疑いで逮捕されたり、そのようなことが起こるたびに大麻をまるで覚せい剤扱いする国家に憤る若者が発言したり、それに呼応して合法化の議論が始まったりするのを見るたびに、私はなんとなくバタイユの「エロティシズムに関する逆説」の中の「この法外な不条理、この最大の逆説こそ、人間存在のあり方なのだ」という一文を思い出して、ひとりごちている。私の平べったい頭の中に落として言えば、気持ちいいものはダメなことでもあって、その許されていない感こそ気持ちいいのだ。そうやって私たちは分裂している。

 さて先日、甘酒を片手鍋で煮ている最中に、臨月の友人が電話をかけてきた。高校時代からの腐れ縁の彼女が言ったことを拡大解釈し、私得意の誇張癖によって折り曲げ、甘酒と一緒に二時間ほどコトコト煮詰めてそこにミルクとハニーを垂らすと要は以下のようなことだった。

 小沢健二のような王子がもう二度とこの世に現れないんじゃないかという私の危惧をお前のような下民には理解できないだろう。理解できないだろうが、小沢健二のようなサラブレッドから見れば、私自身もお前と同じような下民。下民同士これからも慰めあって生きていこうという思いを込めて、少し説明してやろう。小沢健二は生まれた時から自分が王子であることを一ミリも疑わずに生きてきた。一重まぶたであろうと、高校時代に同級生の何人かが不登校になろうと、何度帰還しても一度も歌が上手くならず、今となっては微妙なイケメンですらなくなったルックスでも、それでも自分が王子であることを微塵も疑わない。この素晴らしさとそれを見上げる私たちの恥辱と快楽がわかるか。野外フェスで土砂降りの中、極寒に耐えて何時間も彼の登場を待っていたファンに「ありがとー!」と本気の笑顔で言って、フカフカのリムジンで教会通りの坂を下りてさっさと帰るような、下民の気持ちなど一ミリも理解しようとしないラブリーな彼を、華やかな光のなくなったダンスフロアーでダッフルコートすら持たない私たちは泣きながら愛し続けるよ。それだけがこの世の中をアツくするのだから。

星野源が愛される理由

 さて、私は彼女のような頭の良さそうな女の子たちがオザケンにほの字だった20年ほど前、残念ながら頭の悪そうな女の子としてカラオケで相川七瀬とGLAYを歌っていたし、大人になったところで、周囲の人たちは何かとオザケンに意味を見出しがちだが、そもそもオザケンに意味を求めすぎなのではないかと思っているような一般大衆なので、彼女の見解をそのまま共有するわけではない。何においても、何かを神格化した途端にその感覚は、入信者以外にはあまりに大げさに映るものです。

 ただ、そう言えば昔ダウンタウンが司会を務めていた音楽番組に、ゲストとして登場した小沢健二が、紅白出演時に演歌の大御所が歌っている横でふざけすぎてスタッフに怒られたというエピソードを話し、ぽろっと「なんか全然僕のこと小沢健二だと思って怒ってないんですよ」とつぶやいていたな、と甘酒を飲みながら思い出した。あの清々しいほどの選民意識は確かに2018年の日本には発見しづらいのかもしれない。

 そんなことが気にかかるのは、最近、星野源のエッセイ集を二冊連続で読んだからだ。読んだ理由は、とある出版社の新入社員である慶応卒の男の子が、突然それまでの髪型を改め、星野源がかけていたのと同型だと言い張る丸っこいメガネをかけ始めたから、というくだらない理由なのだが、確かに文庫本の表紙に写る星野源は、丸いメガネをかけている。昨年、同年代の女性が集まるトーク番組に出演した時も、共演者たちが最近の「いい男」の話になった途端に揃いも揃ってホシノゲン!と叫んでいたのだが、30代の疲れた女たちと24歳くらいの男の子にがっちり刺さっているのはすごいじゃないですか。

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ニッポンのおじさん

鈴木涼美

どこか物悲しく、憎めないおじさん。男にリスペクトされる好感度高い系おじさん。こじらせおじさん。新しい価値観で社会を斬るおじさん。そして日本社会を動かすおじさん。彼らはなぜ〈おじさん〉になってしまったのか。彼らの何が〈おじさん〉たる所以...もっと読む

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コメント

dokyu_n 試し読みだけで面白いからメモ 7ヶ月前 replyretweetfavorite

knsw008 こちらもどうぞ。 10ヶ月前 replyretweetfavorite

sunameli 鈴木涼美さんのオザケンにまつわる名文。知ってる上で走ってるドライブ感。 10ヶ月前 replyretweetfavorite

machao_86 "気持ちいいものはダメなことでもあって、その許されていない感こそ気持ちいいのだ。" 11ヶ月前 replyretweetfavorite