━僕の15年間最大の失敗は「SNS戦略」を軽視したこと━
この章の最後にはSNS戦略を持ってきた。今の時代、企業及び起業家は、SNSでのコミュニケーションが多くなってきている。僕は、SNS戦略が苦手だ。そもそも、僕は2017年になるまで、フェイスブックのアカウントもツイッターのアカウントも持っていなかったほどだ。もちろん存在は知っていた。僕の最初の会社では、OpenPNE を使ったシステムなども納品していた。ただ、SNSというものが大っ嫌いで、これまでやってこなかった。
しかし今、どんなに嫌いでもSNSをやっておけばよかったと大変後悔している。これは僕の大の苦手分野だ。とくに有益な話ができるかどうかわからないが、失敗から学べることもあると思うので、ここでSNS戦略について触れる。
僕が起業してから15年の間で、一番大きな変化があったと思うのはSNSだ。資金調達環境でもなく、事業モデルでもなく、SNSの存在が会社経営に一番大きな変化を与えていると思う。
僕が起業した頃は、SNSとはいえまだクローズドなものだった。ミクシィをビジネス活用する人はほとんどおらず、「ゆかし」とかが、知る人ぞ知る富裕層SNSだった。レイスが始めた「ウィズリ」なんてものもあったが、あまり人気は出なかった。アメブロが伸びてきたあたりから経営者がSNSを使うようになってきて、今はツイッター、フェイスブック、仮想通貨周りだとテレグラムとかを、みんな組み合わせて使っている。有料メルマガの次は、オウンドメディアなんかも人気が出てきて、今はオンラインサロンとかがプラットフォームとして流行っている。
これらのSNSは、利用するのに資金もかからないし、手軽だ。いちいち会う必要もないし、不特定多数の人たちに無機質ではない形で同時に情報配信できる。立ち上げのハードルが低いのと、コミュニケーションコストが低いというのが、SNSを経営者が使う理由でもある。しかしそれだけではない。これからの時代にSNS戦略が必須になってきている理由は大きく2つある。
① SNSが与信管理に使われるようになった
② SNSは強い囲い込み商法になった
まずは①の「SNSが与信管理に使われるようになった」から説明しよう。
今、企業の与信の在り方が大きく変わってきている。一昔前は、与信管理と言えば帝国データバンクや東京商工リサーチだった。これらに登録され、利益や売上の金額、借金の金額によって評点がつけられる。これが高ければ良い会社、悪ければ危ない会社だった。単純に言えば、3期連続黒字で自己資本比率が高い会社は与信が高い。そもそも帝国データバンクに掲載してない会社は論外。こんな感じだった。
でも、今は全然違う。SNSで社長が誰と友達か、どんな発言をしているのか、どんなプレスリリースを出しているか、頻繁に情報発信しているか、を与信と考える。どんなに赤字が出ていても関係ない。ベンチャー企業はJカーブを経由しなければならないから、赤字が出るのは当たり前という考えに変わってきている。
SNSに情報を出さず、お金だけ持っている会社、利益だけ上がっている会社は、今の時代、得体の知れない者扱いされ、与信が低くなっている。起業すると、様々な「村」に入ることになる。いわゆる「ベンチャー村」というやつだ。どこの村も既得権益を崩したくないから閉鎖的だ。
誰が支援しているのか、どこかで見たことがあるか、裏の仕掛人が誰か、などが企業の信用になっている。だから、最近のベンチャー企業は資金調達をすると必ずプレスリリースを出す。一昔前は、資金調達をしたからと言ってプレスリリースを出すことなんてなかった。これも与信が変わってきた証拠だ。出所のわからないお金では信頼されないのだ。どのエンジェルから、どの企業から、どのVCからフォロー(投資)されているかが重要な時代なのだ。
次は②の「SNSは強い囲い込み商法になった」。
これは、SNSが流行っている本質ともつながってくる。今、商売で使われているSNSは、一言で言えば囲い込み商法だ。催事商法とか、そういう類と非常に似ている。立ち上げのハードルが下がり、コミュニケーションコストも下がったため、SNSで囲い込むという商法がものすごく流行っている。SNSは弱い絆を作りやすいため、少額ならお金を出すという人を集めやすい。弱い絆がたくさんできれば、強い絆になっていき、そこに熱を持ったお客さんが集まり始める。そして、強い絆を持った人たちが、弱い絆を持った人たちを磁石のように引き付ける。
本来、そのサービスやコンテンツにもっとのめり込みたいが、そういう場がなく残念な思いをしていた人たちにとっては、すごくありがたいサービスである。サービスの提供側も、リソースが多くとられないため費用対効果が高い。そうすると、ごく狭い世界の中で、その企業やコンテンツまみれになり、さもその企業やコンテンツが世の中の中心であるような錯覚を起こした熱狂的な購入者が誕生していく。
このSNS囲い込み商法が流行していることによって、質が良いだけでは売れない時代になってきている。また、クライアント同士が結び付き始めると、人間関係という問題も紐づくから、質が悪いというだけで解約できず、低額で定額ならまあいいやとずるずるお金を支払うことになってしまう。これは、なにも零細企業や中小企業だけが取り入れている手法ではない。例えばシャオミなんかも、この理屈で急成長を遂げた企業だ。
このSNS囲い込み商法が強い理由として、この商法をやっているもの同士がタイアップすることによって相乗効果が出る、という点が挙げられる。要はクライアントのスワッピングが実現し、ますます強い絆を作ることができるのだ。このような状態が加速しているため、PR会社の台頭が後を絶たない。そうしたコミュニティを作るために、既存のSNS囲い込み商法とタイアップさせることで収益を得ようとするPR会社だ。
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