ふと、「池崎のいる家に帰ろう」と思ったユウカは、夕方に調布の家を出て、京王線に乗り、新宿で乗り換えて、帰宅ラッシュの乗客にまぎれながら、磯子へと向かった。
21時。
玄関前についてようやく緊張感を覚える。何も伝えていないけれど、池崎はどんな顔をして出迎えてくれるのだろう。
ユウカはあえて自分が持っている家の鍵を使わず、インターフォンを押した。
「ピンポーン」
……
ユウカが一緒に住んでいた頃の池崎は、遅くとも20時には帰宅していた。勤務先まで30分たらずだったから、平均としては19時。
もう一度インターフォンを鳴らしても、誰かが出てくる気配はない。
「……はぁ」
ユウカは思いっきりがっかりした。鍵はあるわけだから家には入れる。でもやっぱり、池崎に出迎えて欲しかった。
なんとなく勝手に入るのも憚られたから、近くのカフェで池崎の帰りを待って一緒に家に帰ろうかな、とも思ったけど、そっちの方が池崎は重く感じるような気もしたので、結局ユウカは自分の持っている鍵を取り出し玄関のドアを開けた。
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