マネジメントの究極論は社長のブランド化である。

「会社を売却することを前提に起業をする」という斬新な働き方を提案する、正田圭さんの新刊『サクッと起業してサクッと売却する 就職でもなく自営業でもない新しい働き方』の特別掲載、第28回。起業の成功には、周りの期待値を上げるための「バブル」を自力で作り出す努力が大切です。「バブル」を作り出すことが会社のブラント化へとつながるのです。


━起業で成功するコツは「バブル」を作り出すこと━


 起業で成功するには、同じ向きを同じ速度で走ってくれる船を一定数集めないといけない。誰もが、自分よりも勢いがあり、流れに乗っているところと一緒になりたいと思い、情報収集したり、業務提携先を探したり、サービス導入を検討したりしている。これは、資金調達や採用だけでなく、サービスやプロダクトの販売活動でも同じことだ。営業で最も聞かれる質問は、ずばり「どこが導入しているのか?」である。誰もが勝ち馬を探していて、負け馬と一緒になるのなんてまっぴらごめんなのだ。

 起業とは、ある種、このジレンマとの戦いである。本当は、起業家たちは心の底で「今付き合ってくれなかったヤツらとなんて、一生付き合うものか」と思うであろうが、そうも言ってられないのが現実である。こちらが少し大きくなったらまた声をかけていく、ということを繰り返しながら、実績と信用を作っていかなければならないのだ。このジレンマを乗り越えるには、「バブル」を作らなければならない。バブルとはなにやらネガティブな香りのする言葉である。実態以上に、泡のように膨らんでしまい、泡がはじけたらほんの少しの小さな石鹸しか残っていない―。

 実態が伴っていないのに、自分を大きく見せるなんて詐欺じゃないかという真面目な人もいるかもしれないが、なにも詐欺を働けと言っているわけではない。自らが作ったバブルに追いつけるくらいの努力を必死にしなさいという話だ。そういう意味では、起業は、バブルを作り出す努力とバブルに追いつく努力の両方がきちんと組み合わさらないとうまくいかない。

 この起業家はイケてるとか、このサービスは今人気だという噂を業界のキーパーソンになるような人が聞きつけてポジティブな評価をしたり、そのサービスを導入したりすると、ますます周りの期待値は高くなる。その期待値を担保に、資金調達したり、大きな仕事を請け負ったりすれば、さらに期待値は上がり、当初の実態からは想像もつかないくらい大きなことを成し遂げられる。作った会社やサービスがみんなから期待され、どんどん期待値が上がっていく。本当はとくに何か変わったわけでもないのだけれど、そうでもしないと起業なんて成功しない。

 批評される勇気を持たねば始まらない。批評は創造を促す。批評されるからこそ、会社を成長させ続けることができるのだ。それに、期待値を上げるのは難しいが、期待値が下がる速度は異常に速い。上がっていく期待値に対して必死にじたばたしないと、なかなかスケールできない。だから、力技でバブルを意図的に作り出すのだ。立ち上げ期の起業家の強みなんて、小回りが利くこと以外ない。スピードで熱を生み、量をこなして量質転化させるのだ。このような状況を意図的に作り出していくのが起業のコツである。

 起業バブルを作り出す真意は、事業を立ち上げる、並走してくれるパートナーを見つける以外にも存在する。売れる会社を作るには、あなたがいなければ回らないという状態ではいけない。あなたは会社を売却するわけだから、あなたがいないと会社が回らないのでは、当然その会社は売り物にはならない。だからと言って、社長不在で回る会社なんて、どんなに大きくなってもあり得ない。ソフトバンクだって、孫さん不在なら勢い半減だ。

 会社を売ろうとすると、この矛盾とは向き合わざるを得ない。どうしなければいけないかというと、社長のブランド化だ。マネジメントの究極論は社長のブランド化である。立ち上げた最初のうちは、自分で何でもするべきだ。しかし、徐々にその業務を人に引き継いでいかなければならないフェーズが存在する。最終的には、社長が好き嫌いの判断だけをできる立場になることだ。会社らしさをみんなが理解して動いていけることが、マネジメントのゴールである。社長が何もしなくてもよくなるというのとはちょっと違う。現場仕事に追われなくなるからこそ、伸ばすところを伸ばせるようになると言った方が近い。

 誰から聞いた話か忘れたが、会社内で常習的に不倫をしていたマネージャーがいたらしい。それだけでもすごい話だが、彼は何度注意されても不倫をやめず、繰り返していたという。そのマネージャーがある日、グーグルに転職したという。そうしたら、ピタッと不倫をやめたそうだ。理由は、「グーグルらしくないから」。これが究極のブランディングである。


━仕事を断るのも仕事のうち━

 起業してすぐの頃は、小さな仕事を頼まれるだけでもありがたい。誰かが声をかけてくれるだけでもうれしくなってしまうものだ。だからといって、何でもかんでも受けてしまうのはよくない。起業したら、自分のやるべき仕事でないものについては断る勇気を持たなければならない。

 会社の立ち上げ時期は、一つひとつの仕事が大切である。それは、来た仕事をすべて受けろという意味ではなく、いかにいい案件を担当させてもらえるかが大事だという意味だ。事業を軌道に乗せるには、はじめが肝心である。ここで受ける仕事があなたの会社のイメージを決めるし、最初期に受けた案件が次の案件も呼び込んでくれる。いい案件を担当していると、「あの仕事をした会社なら」と信頼度もアップする。

 最初は苦しくても、自社の方向性と違う仕事は受けないことだ。

 ここで、「もらえてありがたいから」という理由で妙な仕事を受けてしまうと、仕事をした気分にはなれるが、質のいい仕事が飛び込んできたときに受ける余力がなくなってしまう。手が空いたときには、すでにいい仕事は別のところにいってしまっている。負のスパイラルから抜け出せなくなる。会社のイメージも立ち上げ期に来た仕事に左右されてしまうものだ。受ける仕事によって、社内に蓄積されるノウハウも変わってくる。見当違いの仕事ばかり受けていると、事業がうまく立ち上がらない。最初こそ、苦しい時期はあるかもしれないが、一つひとつの仕事を見きわめ、選ぶようにしよう。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
サクッと起業してサクッと売却する 就職でもなく自営業でもない新しい働き方

正田圭

本書は「会社を売却することを前提に起業をする」という斬新な働き方を提案します。「起業はハードルが高い」「会社を売るのはさらに難しい」と思われがちですが、「会社を作って売却するのは、世の中に数ある儲け話の中で、一番確実で、一番地に足の着...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません