玉三郎と若手俳優たちの歌舞伎座新開場

歌舞伎の〈いま〉を知る!
市川海老蔵をとりまく舞台模様を中心に、見るべき役者、人間関係、注目の演目などを解説する歌舞伎読本『海老蔵を見る、歌舞伎を見る』(中川右介・著)。
本書の刊行を記念し、稀代の女形・坂東玉三郎のユニークなポジションを解説したパート「玉三郎スクール」を特別公開します。第1回は、2013年の玉三郎スクールについて。

歌舞伎座に出ない立女形

坂東玉三郎は、女形として当代一であり、誰もが第五期歌舞伎座の立女形となると思っていた。

「立女形」、すなわち女形のトップである。公式、正式なポジションではないが、暗黙の了解として、その時代には立女形と呼ばれる役者がいた。

1951年に第四期歌舞伎座が開場してから2001年に亡くなるまで、半世紀にわたり中村歌右衛門が唯一絶対の立女形だった。その歌右衛門帝政が終焉を迎え、誰もが玉三郎こそが歌舞伎座の、すなわち歌舞伎界全体の立女形と認め、これからは毎月のように歌舞伎座の舞台に立つのではと期待していた。

だが、新開場公演の演目と配役が発表された時点で、玉三郎が新しい歌舞伎座にはあまり出る意思がないことは、ぼんやりとではあったが、感じとれた。他の大幹部たちが最初の3ヵ月間(4、5、6月)連続して出ていたのに対し、玉三郎だけが6月は出なかったからだ。

その後も玉三郎の歌舞伎座への出演機会は少ない。

2013年、歌舞伎座新開場「柿葺落」での坂東玉三郎は、4月の第一部で吉右衛門の『熊谷陣屋』で相模、第二部では松緑が大宅太郎光圀の『将門』で傾城如月実は滝夜叉姫をつとめ、5月は第二部の『廓文章 吉田屋』で仁左衛門の伊左衛門の相手役である夕霧をつとめ、第三部で菊之助と『京鹿子娘二人道成寺』を踊った。

6月は公演はなかった。7月4日初日で28日まで赤坂ACTシアターで鼓童の『アマテラス』に主演し、演出もしていたので、その稽古だったのだろう。『アマテラス』は10月には京都の南座でも5日から27日まで上演された。

結局、次に玉三郎が歌舞伎座に出るのは12月まで待たねばならなかった。

玉三郎と仁左衛門

7月以降も歌舞伎座は「新開場柿葺落」と銘打たれ、10月には『義経千本桜』の通し、11月・12月は『仮名手本忠臣蔵』の通しとなった。

11月の『忠臣蔵』はベテラン中心の座組だったが、12月は幸四郎が由良之助、玉三郎が道行と七段目のお軽だった以外は若手となり、海老蔵、菊之助、染五郎、愛之助らが出演する趣向だった。

以後、玉三郎は歌舞伎座に出ることそのものが少なく、出たとしても自分より年長あるいは同世代の役者と共演する機会は少なくなり、若手との座組がほとんどとなる。

その結果、玉三郎と仁左衛門との共演もなくなった。

1970年代から80年代にかけて、「奇跡の女形」と称された玉三郎は、しかし、歌舞伎座には歌右衛門が君臨していたのでなかなか出ることができず、関西歌舞伎が壊滅したため東京へ出てきた片岡仁左衛門(当時、孝夫)も、当時は歌舞伎座への出演機会がなかった。仁左衛門の父・13代目と、玉三郎の養父・14代目守田勘彌とは若いころから仲がよかったので、玉三郎と仁左衛門の共演が実現し、若い観客を熱狂させ、孝玉コンビ、あるいはTTコンビと称されたものだった。

そのコンビが、玉三郎が立女形となったにもかかわらず、歌舞伎座では実現しない。

新開場2ヵ月目の2013年5月の次に玉三郎と仁左衛門が共演するのは、1年5ヵ月後の2014年10月の17代目と18代目勘三郎の追善興行だった。その後は3年以上の空白が続いた。

ようやく2018年2月に高麗屋の三代同時襲名での『仮名手本忠臣蔵』七段目で、仁左衛門が寺岡平右衛門を、玉三郎はお軽をつとめ、3月も共演する。

つまり—玉三郎と仁左衛門の共演は、第五期歌舞伎座になって、これまで2回、予定が決まっているものを含めても4回しかないのだ。といって、このふたりが仲違いしたとは思えない。

若手養成の場として

玉三郎は舞台に出る機会を少なくし、その機会は若い役者を育てる場にしようと、ある時点で決断していたのだろう。

かくして歌舞伎座は、玉三郎が出る月、出る演目では、「玉三郎スクール」とでも呼ぶべき、若手養成の場となった。

もちろん、練習を見せるのでも未熟な藝を見せるのでもなく、完璧なものを上演しており、育てながら公演するという、至難の技に挑んでいる。であるから、毎月のようにはできず年に数回となる。

2013年、玉三郎が歌舞伎座に出たのは4、5、12の3ヵ月であった。

次回は1月25日(木)更新となります。お楽しみに!

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この連載について

海老蔵を見る、歌舞伎を見る 特別編「玉三郎スクールとは何か」

中川右介

歌舞伎の〈いま〉を知る! 市川海老蔵をとりまく舞台模様を中心に、見るべき役者、人間関係、注目の演目などを解説する歌舞伎読本『海老蔵を見る、歌舞伎を見る』(中川右介・著)。本書の刊行を記念し、稀代の女形・坂東玉三郎のユニークなポジション...もっと読む

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コメント

mayumiura これ素晴らしかったなあ。もう一度日本に観に帰りたいくらいだよ。“ようやく2018年2月に高麗屋の三代同時襲名での『仮名手本忠臣蔵』七段目で、仁左衛門が寺岡平右衛門を、 7ヶ月前 replyretweetfavorite

marekingu なぜ歌舞伎座はスクールとなったのか――2013年の坂東 #スマートニュース 8ヶ月前 replyretweetfavorite

rokujoutei 中川右介氏執筆。特別編「玉三郎スクールとは何か」 8ヶ月前 replyretweetfavorite

suerene1 https://t.co/aC49dj5Sjx 8ヶ月前 replyretweetfavorite