起業して「良からぬ世界」に巻き込まれるリスクはありませんか?

「会社を売却することを前提に起業をする」という斬新な働き方を提案する、正田圭さんの新刊『サクッと起業してサクッと売却する 就職でもなく自営業でもない新しい働き方』の特別掲載、第17回。「ダークサイドシリアルアントレプレナー」とは何か? 暗黒面???

━ダークサイドシリアルアントレプレナー━

 つい最近、バルクオムの野口卓也さんと対談した。対談中、彼は起業に失敗してまた起業する人のことを「ダークサイドシリアルアントレプレナー」と言っていて、非常に面白かった(ちなみに、野口さんも「pedia venture program」講師を快諾してくれており、先ほどの木暮氏も僕は野口さんからの紹介で出会った)。
 起業したら、失敗することだってある。僕は「サクッと起業して、サクッと売却しろ」と言っているが、「絶対に誰でも楽して売却できる方法」とか「寝てても起業に成功」などとは一言も言っていないので、勘違いしないでほしい。「サクッと倒産」だって全然あり得るのだ。

 今から、そんな「ダークサイドシリアルアントレプレナー」について話す。

Q 起業に失敗したら就職が難しくなりませんか?

 ダークサイドシリアルアントレプレナーは、起業に失敗し続けたら就職を余儀なくされることだってあるかもしれない。その時に気になるのは「就職しづらくなるリスク」である。

 例えば学生起業をして、在学中に会社を潰したとする。「でも、いい社会勉強になりました」と言って周りと同じように就職活動をするのはそれほどマイナスではないだろう。今ならベンチャー企業など、会社によっては起業歴のある人を評価し、積極的に採用するところもあるはずだ。

 ところが、年齢によっては起業歴がマイナスになることもある。今まで全く就職した経験がないまま起業した場合だ。
 起業して30歳までがんばってみたものの、事業がなかなか軌道に乗らず、会社をたたんで就職したいと考えたとする。本人は会社で寝袋生活もいとわず、必死に事業を伸ばそうとしていたのかもしれない。だが企業の採用担当者からみれば、「ベンチャー企業の経営者ぶってたいした実績も残せなかった人」というレッテルを貼られる可能性が高い。

 しかし、以前は煙たがられていた起業家の経歴も、ベンチャー企業ばやりの昨今は価値が上がっている。何もかも自分ごととしてやらなければならない環境に身を置いてきた人間と、雇用され続けてきた人間では、仕事に対するマインドセットが全く違うという認識も広がっている。
 起業に失敗して就職を考えたい人は、立ち上げ期のベンチャー企業に就職活動をするといい。ウォンテッドリーに掲載している会社なんかは、たいてい温かく迎え入れてくれるのではないだろうか。ウォンテッドリーに掲載している企業は1000社弱ある。今後も増えていくだろう。それだけあれば、まあどっかは採用してくれるのではないだろうか。

 ただ、起業して失敗した場合、採用市場での評価が高まるというわけではないので、そこは勘違いしないようにお願いしたい。
 何をやってどう失敗したかは、面接でもしつこく聞かれるだろう。

 今、就職市場には過去に経営者をやっていましたという人の再就職案件が多いように思う。僕はこの1年間でおそらく150人以上は面接をしたが、20%程度は起業経験者だった。
 しかし、僕はこれらの人たちを誰一人として採用しなかった。なぜか。これらの人たちの中に、自分が経営者をやっていた時よりも安い給与を希望してきた人は1人もいなかったからだ。

 起業に失敗した時に、せこい考えで自分の給与は保ったまま(下手したら増やして)雇われの安全な世界に逃げ込もうとする人は後を絶たない。
 仮に、あなたが起業に失敗してどこかに就職しようとするのなら、こういう卑屈な考えは捨てたほうが良い。面接の時にいかに自分が成功間近だったかを説明しても、就職活動に来ている時点で、うまくいかなかったことくらい経営者には一目でわかってしまうのだ。

 起業して、失敗して就職することが悪いと言っているのではない。就職してやり直すなら、変なプライドは捨て、思い切って給料を下げて一からやり直そう。その方が結果として近道だ。

Q 「良からぬ世界」に巻き込まれるリスクはありませんか?

 これはダークサイドシリアルアントレプレナーだけではないのかもしれないが、起業して「良からぬ世界」に巻き込まれるリスクについてたまに聞かれる。

 起業と売却を何回も繰り返すと、人脈ができ、信頼できる人も見つかってくる。
 しかし、初めて会社を立ち上げた場合、最初はあまりまともな会社とは付き合えない。上場企業や勢いのある会社と組みたいと思っても、実績のまるでない会社では難しいのが現実だ。とくに立ち上げ直後は人もいない、金もない、コネもない状態のため、相談できる人もおらず、よくわからないまま浮ついた儲け話に乗ってしまい、妙な事件に巻き込まれたりするリスクが高くなる。一度そうした事件に関わると、インターネット上に残る。将来IPOをしたいと思っても、東京証券取引所や証券会社からしっかりチェックされ、IPOのできない起業家と認定されることにもなりかねない。

 最終的には「野性の勘」で動くしかないのだが、立ち上げ当初は良からぬ輩が周りをうろうろすることを覚えておこう。少しでも「怪しい」と思ったら関わらない、といった基準を自分なりに持って、自衛するしかない。

 とくにこの、「良からぬ世界」に巻き込まれる心配は、過保護な親がする。
 親が子供の起業を心配する大きな理由の一つに、子どもが「良からぬ世界」に巻き込まれるのではないか、というのが挙げられる。ただ、悲しいことに、過保護な親の元で育った子供ほど詐欺や事件に巻き込まれる可能性は高い。保護されまくっているため、出会う人を全員信用してしまうのだ。

 つまり、これは「起業して良からぬ世界に巻き込まれてしまうリスク」ではなく、「過保護に育てられたことのリスク」なのだろう。
 今はネットの検索も充実している。会社名と人物名をよく検索しておけば、よほどでないかぎり変なニュースはキャッチすることができるはずだ。

 多少損な取引を強いられたり、ぼったくられてしまうのは、勉強代と割り切るしかない。実際のところ、起業したら、騙されるに決まっている。騙されるのを怖がっていたら、誰とも契約なんてできない。
 企業というものは、仕入れたものに利益を乗せて販売している。そういう意味では、赤字の会社以外、99%の会社がぼったくっているのだ。たまに騙されるくらい気にしないでよい。次から二度と取引しなければよいだけだ。

 ちなみに、起業初期は少しくらい騙された方がいい。そうやって免疫をつけておけば、大きな取引の時に騙されるリスクを下げることができる。
 実際、起業してから起こるのは、お金の問題よりも人間関係の問題の方が多い。従業員にどうやって注意したら角が立たないか。取引先をどのように断ったら紹介者に迷惑がかからないか。知人について変な噂が流れているが、本人に文句を言うべきか黙っているべきか。自分が世話にもなっていない人に「あいつは俺が育てた」なんて言われることもある。

 よく「嫌われる勇気を持て」なんて言われるが、人間なかなか他者を全く気にせずに生きていくことはできない。共同体で生きるのが人間の特徴だから、人間の悩みもまた共同体にある。起業していると特に人間関係のトラブルに巻き込まれることが多い。ただでさえ人間関係のトラブルが尽きないのが人間なのに、お金の問題まで絡むのだから。
 起業の人間関係のもつれは多い。僕自身、人間関係を構築していくのがうまくないので、こうしたらよいなどというアドバイスはとくにできないが、2つ思っていることがある。

 1つは、人間の代わりはいくらでもいるということ。従業員の代わりはいる。どんなに優秀な従業員だとしても、同程度の能力の従業員はゴロゴロいる。同じ条件の取引先だってごまんとある。すぐみんな、あいつの代わりはなかなか探せないとか、この業者がこの業界では一番とか、あの人に目をつけられたらこの業界ではやっていけないなんて言うが、こんなのは僕に言わせれば思考停止以外の何物でもない。人間関係が面倒なら、さっさと代わりを探すにつきる。そこで悩んで思考停止してしまうこと自体、時間の無駄だ。

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サクッと起業してサクッと売却する 就職でもなく自営業でもない新しい働き方

正田圭

本書は「会社を売却することを前提に起業をする」という斬新な働き方を提案します。「起業はハードルが高い」「会社を売るのはさらに難しい」と思われがちですが、「会社を作って売却するのは、世の中に数ある儲け話の中で、一番確実で、一番地に足の着...もっと読む

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