石野雄一
ベストセラーが出ない!そのとき出版社が手を出す「麻薬」とは?
「初版部数を増やせば、1冊あたりのコストも下がり、利益が増えるように見える。だが、実際には部数を増やした分、コストとしてキャッシュは出ていく」ファイナンスの智恵を得て、幹部会議を開く、女子高生社長。社員は重い口を開き始めた―― 平凡な女子高生が、青春を賭けて、出版社立て直しに挑む。ビジネス教養が一気に学べる、疾走感満載のビジネス小説、第17回!
事実をありのままに見ることができない
翌日の放課後、森下書房に出社した美鈴は、経理財務担当の御園と営業部長の早瀬、編集長の田之上、そして制作部の設楽を呼び出して、緊急の幹部会議を開いた。
もちろん、議題は「資金繰り」についてだ。
美鈴は、まず返品率が高くなって、キャッシュが減っている問題について切り込んだ。昨日の石島の説明を踏まえ、「刷り部数を増やすと、1冊あたりのみかけのコストは下がり、利益が増える」ことの問題点を指摘した。そして、それはファイナンス的にいえば、キャッシュを見えなくし、資金繰りを悪化させると警鐘を鳴らした。美鈴がファイナンスの観点から意見することについて、すでにメンバーは驚かなくなっていた。
美鈴の説明を聞き終えると、御園が口を開いた。
「美鈴社長のいう通りだ」
拍子抜けするほどあっさりと認めた。制作部の設楽は下を向いたままだ。
御園は、「刷り部数を意図的に増やしたのはしかたのないことだった」と白状し、そのいきさつを説明し始めた。
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倒産寸前! がけっぷちの出版社を救ったのは、女子高生の勇気と「ファイナンス」だった!
この連載について
石野雄一
小さな出版社の社長だった父の突然の訃報。 あとを継ぎ、社長に就任した女子高生の美鈴。 しかし会社は倒産寸前。銀行への返済期限は3ヵ月。 「出版不況」「返品の山」「使えない編集者」。 次々と難題が襲い掛かる。途方に暮れる彼女の前に 現れ...もっと読む
著者プロフィール
1991年4月旧三菱銀行に入行し、9年間勤務した後退職。2002年5月米国インディアナ大学(MBA課程)修了。帰国後、日産自動車(株)入社。財務部にてキャッシュ・マネジメント、リスクマネジメント業務を担当。2005年3月退職。2年間 独立系財務戦略コンサルタントとして活動後、2007年2月より旧ブーズ・アレン・ハミルトンにて企業戦略立案、実行支援等に携わる。2009年5月同社を退職後、コンサルティング会社である株式会社オントラックを設立。2011年4月より3年間、中央大学大学院 国際会計研究科 非常勤講師を務め、現在は、事業投資・撤退基準策定・導入支援コンサルティング、プロジェクトファイナンスのCFモデルの構築支援、ファイナンス、財務モデリングの研修事業を行っている。著書に、10万部を突破し、ファイナンスの定番書として読まれ続けている『ざっくり分かるファイナンス』(光文社新書)のほかに、『道具としてのファイナンス』(日本実業出版社)、『まんがで身につくファイナンス』(ダイヤモンド社)がある。
★著者ページ http://ontrack.co.jp/