20代初めの頃、23歳年上の彼ができた。私は昔から父親が苦手だったので、父親を彷彿とさせるような年上男性にも嫌悪感を示していた。なので、自分としてはそんな男性と付き合うなんてもってのほか、だったのだが。
自分よりはるかに年下の女性を求める男性の心理は何なのか。父性本能または業なのではないだろうか。故に、従順な女性よりはむしろはねっかえりというか、ひねくれていたり反抗的だったりする女性に惹かれるように思う。当時の私のような女性に。
「君には才能がある」と言われて
父親が苦手だった私は、実際には父親の愛を求めていたのだろう。23歳年上の男性(仮にフミオとでもしておこう)はインテリだったので、バカな私をあれやこれやと教育した。
ぶっちゃけてしまうと、フミオは私の師匠だった。10代の後半で、漫画家を目指していた私は夢破れ、無謀にも小説家に鞍替えした。20歳を少し越えた頃、小説の基礎を学ぼうと通い始めた講座の壇上に、フミオがいたのである。
「君には才能がある」って、すぐに引き抜かれたんですよ。ヤラれるに決まっているというのにね、くっついていった在りし日の私。うまい話に騙されてしまうのは、1%の可能性を信じてしまうせいだ。特殊な才能の在処なんて、神様しか知らない。でももしかしたら、私の中にもあるかもしれない。私は田舎者でまっさらで、素直だった。
やがてフミオのマンションに呼ばれ、ほぼ半同棲生活に突入した。「バカだ」「ブスだ」と散々私をけなすくせに、「俺は長生きしない」といきなり悲惨モード炸裂というかナルシス臭ぷんぷんさせたりと、バカな私にはちんぷんかんぷんだったフミオ。そのくせ唐突に、
「俺がおまえを女にしてやる」
とささやく。真顔で。
レ、レディコミ?
「ぷっ!」と本気で失笑しそうになったのだけれど。口にも態度にも出さない最低限の賢さ、いや、あざとさが私にはあった。
とにかく、今でいうモラハラ寸前の行為もされたかもしれない。しかし次第に私も、フミオの言うことに従うようになっていた。父親に叱られたり、あるいは可愛がられたりした経験がほとんどなかった私にとって、フミオのアメとムチのバランスは、絶妙に心に刺さったのだ。
彼が20歳以上も年下の私を選んだ理由
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