私にとってオリンピックは、フィギュアスケートに終結する。ゆえに夏季は必要なく、冬季がすべてだ。などと豪語するとオリンピックファンに罵倒されそうだが、そもそもオリンピックに夏季と冬季があると知ったのも、ついこの間というていたらく。私は、まったくもってスポーツに興味がない。
だけど、フィギュアスケートだけは別。2014年のソチオリンピック中継で、偶然羽生結弦選手を見た時、「なんだ、この動く色気は!」と度肝を抜かれたのだ。当然ながら、ソチ以前も羽生選手の名前くらいは知っていた。某製菓会社のCMで微笑む姿とかね。あたりさわりのない薄味イケメン、くらいの印象だった。
しかしソチの『パリの散歩道』の演技を目の当たりにし、「ゲイリー・ムーアが生きていたら羽生選手を押し倒しただろうよ」と悶えずにはいられなかった。動く色気は人の心もたやすく動かすのである。
マニアの集会で白い目で見られたけれど
先日私は、某映像会社が主宰するフィギュアスケートマニアの集会に参加した。オリンピックに向け、参考資料でも作成するのだろうか。サロンでのお茶会といった風情で、メンバーは40代~60代の熟女が8名。まずは自己紹介で、フィギュアスケートの魅力について発表したのだが。
皆様、「田中刑事選手は、初出場のジュニアグランプリでは最下位だったの。でも、その後の成長ぶりには胸を打たれたわ」とか「宇野昌磨選手のクリムキンイーグルを見ると、心が洗われるの」と、一様にぬるいことを並べている。さながら「選手達の成長」と「技の美しさ」のみが、フィギュアスケートのあるまじき姿というように。初対面同士の腹の探り合いもあったかもしれないが、人生も折り返し地点を過ぎて清純ぶるほうがちゃんちゃらおかしい。私は鼻息を荒くした。
「フィギュアスケートの魅力は色気です。氷上にいる羽生選手の色気は半端ないです」
力んで演説したら、瞬時にあたり一面氷上になりました。
皆が透明のバリアを張ったように、言動がよそよそしくなったのだ。私はまるで「不純」という名のウイルスであり、私の色気発言は暗黙の了解でNGワードになった。他のメンバーは「トリプルアクセルが」とか「4回転サルコウが」とか、そういうのはヤフーニュースで検索すればいいのでは、といったまったくそそられないフィギュアスケート談義を繰り広げていた。
この様子がテレビで放映されていたら、間違いなくモザイクがかかっていただろう私は、むりやり割って入り、
「地上と氷上で、羽生選手の色気スイッチが切り替わるんですよね。フギュアスケートって、すなわち色気ですよね」
大事なことだから2回言いました。これがテレビで放映されていたら、間違いなく音声が切り替わっていただろうなぁ。ていうか、フィギュアスケート=色気ってタブーなの? 皆様、本当に選手達の成長だけに心をときめかせているの? 4回転サルコウって、肉眼で確認できているの?
性欲は、人間の三大欲求なのに
今から1年前、新宿二丁目のバーに来訪したら、フィギュアスケートの世界大会映像が流れていた。そこには私と私の友人、40代の女性と女装家が数人いて、一様にテレビ画面に釘付けになっていた。
「ねえ、今の腰つき、見た?」
「背中のカーブが最高よね」
「この選手のお尻、いいわあ」
選手達の成長や技の美しさなど見事にスルー。無論、選手達の成長や技の美しさがバックグラウンドにあるからこそ、色気がだだ漏れになるのだ。色気支持の私だって、十分にわかっている。冷たい氷を溶かすほどの、選手達のたゆまぬ努力とフィギュアスケートに対する情熱を。
その努力と情熱を、エロスやアガペーに脳内変換してしまう私や二丁目の住人を、選手達は責めたりしないよね。うん、まあ、攻められてもいいけど(別の意味でね)。
人間に備わった三大欲求は、食欲、睡眠欲、性欲である。しかし食欲と睡眠欲は市民権を得ていて、性欲だけが藪の中に閉じ込められている感が否めない。私達がこの世に存在しているのも、少なからず性欲が関与しているというのに。
「日本縦断! 食欲王者決定戦」みたいな番組はゴールデンタイムで堂々と特集され、「ご当地名物! 性欲神技選手権」みたいな番組は却下である。教育上許されないのは承知の上だが、臭い物に蓋をするような扱いは、いささか嘆かわしいのではないか。どうにかこうにか、うまく扱ってほしいと思う次第である。
体操やシンクロナイズドスイミングも
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