少女」の誕生とハードコア婦徳

不道徳なお母さんライターが、日本の「道徳教育」のタブーに踏み込み、軽やかに、完膚なきまでに解体! まずは、明治時代までさかのぼり、日本における「読書」と「道徳」の関係をさぐります。
ときは日清戦争真っただなか、少年たちに「やんちゃ」と「愛国」を煽る少年誌が、かたや少女に求めたのは……なんと「おてんば少女」は死に値するというDEATH説教! 今回も必読です!

日本初の少女小説「着物の生る木」

戦争・冒険をフィーチャーするあまり男子向けに傾きすぎた『少年世界』は、創刊半年後の1895(明治28)年9月に、女子向けスペース「少女欄」を設ける。これは子供雑誌に初めて現れた女子専用ページで、「少年」から「少女」を切り出した画期的な企画だった。少女文化はここから始まったといっても過言ではない。

少女欄の初回に掲載された若松賤子「着物の生る木」(『少年世界』明治28年1巻18号)は、日本初の少女小説とされる。

「着物の生る木」は、母から頼まれていやいや前掛けを縫っていたお裁縫が苦手な少女・なつ子が、見知らぬ老人に誘われるがまま不思議の国にトリップする空想小説だ。向かった先は、帯のなる木や前掛け・帽子・リボン・足袋・下駄の畑などがあり、衣類を自由に収穫できる国。家族の衣類を自分で仕立てなければならなかった明治の女性にとって、夢のような世界だった。喜んだなつ子だが、老人に無断外出をとがめられ、家に帰れなくなってしまう。家でお裁縫していればよかった…となつ子が後悔したところで、どうにか帰宅。無断外出を戒める教訓小説である。

「少女欄」第2回では、夫である巖本善治が登場し、裁縫を嫌う女子に対してお説教している。「凧をあげたり、独楽を廻したり、終には鬚を生やして馬に乗つて軍人にでもお成(なり)なさるのですか。若し左様(さう)でなく、女は女としての美徳を作らふとするには、裁縫は是非勉強しなければ成りません」(「裁縫科の勉強」明治28年1巻19号)。

両者のメッセージは共通している。「軍人になれない女子は、『少年世界』を読んで男子と同じようにやんちゃや冒険に憧れてはいけない。家でおとなしく裁縫していなさい」である。

発するメッセージは似通っていても、女の子の夢を少しでもかなえようとユニクロのようなファストファッションの国を白昼夢として描き出した若松賤子の才気を感じる。彼女がこのまま書き続けていればファンタジー少女小説というジャンルが誕生してもおかしくなかったが、若松賤子は翌1896(明治29)年2月に亡くなってしまう。

ハードコア婦徳を強いる「少女欄」

若松賤子が亡くなった明治29年2月、巖本善治が少女欄に掲載した教訓小説「鶴の貞操」(山下石翁名義『少年世界』2巻4号)は、妻が不貞を働いたと勘違いした鶴のオスが百数十匹の鶴仲間を引き連れて巣を襲撃し、メスもヒナも皆殺しにするという残酷DV物語だ。「他人を簡単に疑ってはいけない」という教訓かと思いきや、鶴ですらこれほど操を重んじるのだから万物の霊長である人間はもっと重んじるべきという、完全にオス寄りの訓戒で締められる。妻に不貞の疑いあらば、無実でも一方的に惨殺しましょう、とは理不尽にすぎる。

『少女小説事典』の解説によれば、「鶴の貞操」は「当時の『少女』欄の傾向の一つを示している」作品なのだそうだ。美しいがトゲで周囲に迷惑をかける高飛車な薔薇の女の子がかまどの中で燃やされてしまう「薔薇嬢」(明治28年1巻21号)や、親の言いつけを守らずに庭で遊んだ少女が池に落ちて足が不自由になる「達磨さん」(明治29年2巻20号)など、少女欄には女らしくない少女がひどい目に遭う読み物が多い。

「おてんば」は死に値する大罪

中山白峰「おきやん」(明治29年2巻23号)は、タイトルからおてんば少女が大活躍する話かと想像するが、さにあらず。主人公のお板はみなりにかまわず「お尻の用心、小用心」と女の子の着物をめくったり、小さい子のものを取ろうとするやんちゃ小僧の女版で、周囲に嫌われている。男の子の鬼ごっこにまぜてもらおうと声をかけても、「女の癖に僕等と遊ぼうなんて、生意気な奴だなあ。こんな旋毛(つむじ)曲の、おたんちんを入れうもんなら、僕等の顔に関わろうね。ねえ二郎さん」「皆して撲(ぶ)つて遣らうぢやないか、僕ァそんな奴を撲(はり)倒すのが大好さ。四郎さん、代りに撲つぞ。可いだらうね」とポカポカ殴られてしまう。泣いても「貴様見たいな、お転婆の、ぞんざい者の、女らしくもない行儀作法を知らぬやつは、僕が撲つんぢや無くて、自分で握拳の傍へ来るんぢやないか」と言い捨てられる始末。日頃の行いが悪いため、大人も助けてくれない。ここで作者の教訓が入る。

其処を見ても、女は、行儀よく、控目にして、萬事内端で居なければならないかと思われます。

お板が改心したり好かれたりする記述は最後までなく、家計を助けるという名目で娼妓になって死ぬという、どこまでも陰惨な話である。少女が救われないのはいいとして、「この動物(けだもの)は、悪病に取着かれて、死んだとやら。殺されたとやら」という締めの文章から匂いだつおてんば少女への嫌悪がすさまじい。現代のわれわれは「おてんば」という言葉になんとなく好もしいイメージを抱くが、当時はそこまで憎まれていたのだろうか。

おてんば少女が娼妓になる小説というと、樋口一葉『たけくらべ』を思い出す。『たけくらべ』の発表は「おきやん」のわずか8か月前で、媒体も同じ博文館の雑誌だった(『文芸倶楽部』第二巻第5号、明治29年4月10日)から、なんらかの影響があったとしても不思議ではない。『たけくらべ』のほうでもヒロインは「おきやん」と呼ばれているが、近所の人々が「女らしう温順しう成つたと褒めるもあれば折角の面白い子を種なしにしたと誹るもあり」と噂するくだりがある。おてんば少女を面白がる庶民も普通にいたのである。

同時代の名作『たけくらべ』で美しくはかない存在として描かれたおてんば少女は、『少年世界』ではけだものとして罰せられる。「冒険」や「やんちゃ」を、「日本人」の「男」らしさとしてもてはやすためには、少女はそれらとは正反対のおとなしく控えめな存在でなければならなかったのだ。

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堀越英美

核家族化で家庭教育はダメになった? 読み聞かせで心を育てるって……本当に? 日本で盲信されてしまっている教育における「道徳」神話の数々。そのすべてを、あの現代女児カルチャー論の名著『女の子は本当にピンクが好きなのか』でセンセーションを...もっと読む

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コメント

Echuiriel さきほどの内容はこちら。https://t.co/XDTASy9MR4 過去記事だから有料コースじゃないと見られないかもです。 5ヶ月前 replyretweetfavorite

souhaku4 #肉球新党 党員は読んどくべきじゃないの? 5ヶ月前 replyretweetfavorite

fu_fu2527 美しいがトゲで周囲に迷惑をかける高飛車な薔薇の女の子がかまどの中で燃やされてしまう「薔薇嬢」や、親の言いつけを守らずに庭で遊んだ少女が池に落ちて足が不自由になる「達磨さん」など、少女欄には女らしくない少女がひどい目に遭う読み物が多いhttps://t.co/EXDjWzGJBp 5ヶ月前 replyretweetfavorite

fu_fu2527 両者のメッセージは共通している。「軍人になれない女子は、『少年世界』を読んで男子と同じようにやんちゃや冒険に憧れてはいけない。家でおとなしく裁縫していなさい」である。 https://t.co/EXDjWzGJBp 5ヶ月前 replyretweetfavorite