出版不況なのに本の点数が増えるのはなぜか?説明しましょう

自転車操業とさらなる資金繰り悪化を告げられた女子高生。たった1冊のヒットではダメなのか。ほんとうに会社はつぶれてしまうのか。相談を受けた石島が、解決策を少しずつ紐解いていく―― 平凡な女子高生が、青春を賭けて、倒産寸前の出版社立て直しに挑む。「出版業界」のリアルを描き出しながら、必須のビジネス教養も一気に学べる、疾走感満載のビジネス小説、第16回!

自転車操業のワナ

「何から手をつければいいんだろう」

クリームソーダのアイスクリームを口に運びながら、美鈴は素直な気持ちを口にした。

「一つひとつ整理していきましょう。まず、何が原因で資金繰りの問題が起きているのでしょうか?」

「それは、返品の問題。返品率の上昇が資金繰りを苦しくすると、ミソじいはいっていたわ」

「ということは、返品率を低下させることが解決すべき課題ということですね」

「うん、私も『だったら返品率を減らせばいいじゃない』とミソじいにいったんだけど、『減らせるものなら、とっくにそうしている』って反論されちゃった」

「出版社の立場から見れば、返品率が高いというのは困った問題かもしれない。でも、読者の立場になってみたらどうでしょうか?」

「読者の立場? うーん、返品率が高いということは、読みたいと思ってくれる人が少ないっていうことじゃないかな」

「そう、ドライないい方ですが、その本にそれほどニーズがなかった、ということになります」

「ということは、読者のニーズよりも多く刷りすぎってことになるよね」

「もちろん、テーマや営業、マーケティングの問題もありますけど、そもそも刷りすぎなのかもしれない。本当に新刊の刷り部数が適正なのか、きちんと確認したほうがいいですね。刷り部数は、誰がどうやって決めているんですか?」

「先月、部数を決定する会議に参加したけど、制作部の設楽さんが進行していたかな。営業部と編集部、あと経理財務を担当するミソじいの意見を聞いていたけれど、最終的には制作部の人が決めていたみたい」

制作部とは本の造本に関わる部署で、印刷・製本業者との窓口でもある。本の制作費を管理する役割を担い、森下書房では制作部が刷り部数について決定権をもっている。

「ところで、さっきの美鈴さんの話では、昔の返品率は平均30%前後だったけれど、ここ2年ほどは40%近くで推移し、来月は40%台後半に数字が跳ね上がる見込みだ、っていうことでしたよね」

石島はあらためて確認した。

「うん、そうだよ」

「なぜ、2年ほど前から10%も返品率が上がってしまったのでしょうか?」

「あっ、それ私も気になって、ミソじいに聞いたよ。『出版不況だからしかたない』って言っていたけど」

「出版不況が原因……ですか。出版不況は最近始まった話ではないはずですが……おかしいですね」

美鈴は、石島の眼鏡の奥の眼が鋭く光るのを見過ごさなかった。

石島には、すでに答えが見えているのかもしれない—。確信はないが、美鈴にはそんな予感がした。

石島はあごに手を当てながら少し考え込む様子を見せたあと、おもむろに口を開いた。

「ここでファイナンスの話をしておきましょうか」

「待ってました! ファイナンス」

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女子高生社長、ファイナンスを学ぶ

石野雄一

小さな出版社の社長だった父の突然の訃報。 あとを継ぎ、社長に就任した女子高生の美鈴。 しかし会社は倒産寸前。銀行への返済期限は3ヵ月。 「出版不況」「返品の山」「使えない編集者」。 次々と難題が襲い掛かる。途方に暮れる彼女の前に 現れ...もっと読む

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コメント

tatsumi_kikaku 出版社的には非常におもしろい記事です。うん、帰りに紀伊國屋寄ろう ε≡≡ヘ( ´Д`)ノ 9ヶ月前 replyretweetfavorite