一生の仕事を持てという母、ビルゲイツになりそこねた父
藤野 この対談シリーズでは現在の事業だけでなく、過去に遡って社長の人となりを掘り下げているんです。ということで、今回は経沢さんがどんなご家庭に育ったのかということから、おうかがいしたいと思います。
経沢 母は専業主婦です。常に、「あなたは一生の仕事を持ちなさい、これから女性はみんな働く時代になるから」と私に言っていました。だから、中学受験などにも熱心で、しっかり勉強できる環境をつくってくれました。でも、後々そのことを後悔していたみたいなんですけどね。
藤野 どうしてですか?
経沢 私、道を歩きながらでも勉強するような子だったんですよ。
藤野 それは……(笑)
経沢 夢中になったら周りが見えなくなる性格だったので、母は近所の人に「経沢さんちの妹さんは変わっているわね」「宇宙人みたい」とかいろいろ言われていたみたいで。大人になってもなぜか仕事ばかりしているし、変わった子に育ててしまったという負い目を感じていたようです。私には姉がいて、彼女はごく普通のまじめな人です。だから母親のせいじゃないと思うんですけど(笑)。
藤野 なるほど(笑)。
経沢 でも、最近はトレンダーズも上場しましたし、経営をがんばっているということがわかって、ホッとしているみたいです。
藤野 お父様は何をされていたんですか?
経沢 これはあまり人に言ってないんですけど……父は、ずっと大企業に勤めていて、ある時突然会社を辞めて起業したんです。SEだったので、自分でソフト開発をして通販しはじめたんですよ。組織化しなかったので、全然、大きな事業にはならなかったんですけどね。それで今でも「おれは、ビルゲイツになりそこねた」とか言うんですよ。もう、恥ずかしいですよね!
藤野 いやいや、いいじゃないですか(笑)。山っ気がある人だったんですね。でもちょっと納得しました。というのも、上場した企業の創業社長の父親の80%は、自営業なんですよ。中堅企業の社長だったり、八百屋だったり、設計事務所を開いていたり、業種はいろいろですが、サラリーマンの家庭で育った人はあまりいないんです。
経沢 そうなんですね。うちの父は自営業というか……ちょっと変わった人ですけどね(笑)。
自由が欲しくて、アルバイトで荒稼ぎしていた大学時代
藤野 それでも、やっぱり何かしらのスピリットは受け継いでいるんじゃないですか? お父さんから受けた影響って何かありますか?