団鬼六「麺と蛇」
カップ焼きそばを縛(いまし)めている麻縄のようなビニールの包装を解き、フタを開けると、容器に食い込んでいた、陶器のようなひかり輝く麺が顔を出す。やかんに、二、三発、豊満な尻を平手打ちするように強火にかけ、熱湯ができるのをねっとりと待つ。熱湯を注がれた麺は、屈辱にむせびながら久しぶりに自由にされた喜びを前に、本能的な踊りを踊るようにふやけていくのであった。
捕食者であるところの我々は、かやくを入れ、麺が踊りふやけていく姿を、舌なめずりするように眺めて、三分待つことにする。その間、麺は、パチパチと狂乱と歓喜の声をあげている。
湯切り口から、熱い樹液をシンクに流し、ハマグリの味ともいうべきソースをかけて、漆黒の艶になるまで、存分に混ぜる。ほどよく濡れてきたところで、我々は、その、花弁をいただくのであった。
伊藤計劃「麺とソースのハーモニー」
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