「こうすべき」と思うからしんどくなる。
「これもアリかも」で乗りきりましょう。
私は38歳で結婚して、いっぺんに4人の子持ちになりました。おっちゃん(夫の川野純夫)は再婚で前の奥さんとの間に連れ子がいたんです。おじいちゃんおばあちゃんも同居していたので、大家族の中で育ったけれど結婚してからも大家族でした。作家としても芥川賞をとって連載を何本も抱えていましたから、私の30代はまさに大車輪。どこにそんなエネルギーがあるのかと人からよく驚かれたものです。
女性も30代になると仕事も充実してくるし、これで結婚なんてしたら、どうやって両立していったらいいんだろうと悩んでらっしゃる方も多いことでしょう。
もちろん独身時代を謳歌するのも素敵なことよ。でも私は家庭を持って、とっても幸せだったから、出来うることならみなさんも家庭を持って子どもを育てるということをやってみたらいいと思う。
私は自分の子どもは産まなかったけど、連れ子でも子供は可愛かった。
上の子はもう大きかったから何もムリに「お母ちゃん」って呼ばせることはないと思って、ずっと「聖子おばちゃん」で通したんです。「お母ちゃんって呼んで欲しい」と言えば子どもたちもそうしてくれたと思うけど、どんなかっこうでも心が通えばいいというのが私の考え。それで仲良くしていれば、その方がさっぱりしていいと思った。
締め切り前はどうしたって仕事部屋にこもりきりになる。そうすると誰かしら呼びに来るのね。どんなに忙しくたって「仕事中は入ったらダメ」なんてことは絶対に言いませんでした。
「聖子おばちゃん」
「はい、何ですか」
「あのな、明日は給食費持っていく日やの」
学校から帰ったらすぐに言わないと子どもは忘れてしまいますものね。言い忘れて、よく学校から走って帰ってきたりもしましたよ。
それで仕事部屋には子どもたちの黒板がありました。と言っても、子どもらが書くんじゃないのよ。私が自分で書くんです。「この日はお弁当が要る」とかね。一日でも見逃したらえらいことです。「僕、言うたのに」って泣かれてしまいますから。
赤いペンで書いたから黒板はいつも真っ赤。
「えらい繁盛してますなあ」
おっちゃんはのんきなもの。仕事も家事も一手に引き受けるのは私で、男の人は仕事だけ一生懸命やればいいんだから楽でいいわよね。それでもおっちゃんは「そんなことなら小説なんてやめてしまえ」とは絶対に言わない人でした。
どんな境遇でも大事なのは自分の気持ちの持ちよう、それから相手の人柄の良さだと思います。困ってる人を見たら「どないしたん?」って自然に言える人がいい。
「何があったか言うてみい」
これが言える人なら大丈夫。なんとかなる。