脳腫瘍は茶碗蒸しのぎんなん?
脳の病気には「脳腫瘍」もあります。
脳腫瘍には、「神経膠腫」「神経鞘腫」「髄膜腫」「頭蓋咽頭腫」など、由来する細胞によってさまざまな種類があります。肺がんや乳がんなどが転移した「転移性脳腫瘍」もあります。
良性から悪性までさまざまですが、良性の腫瘍でも、大きいと脳を圧迫して麻痺を引き起こしたり、場合によっては、「脳ヘルニア」といって、脳の一部が「大後頭孔」から脊髄のほうへはみ出したりする(死に直結する危険な状態)ので、手術で取り除かなければなりません。
私は麻酔科にいたとき脳腫瘍の麻酔もかけましたが、ある荒っぽい脳外科医に驚かされたことがあります。肺がんが脳に転移し、複数の腫瘍があった患者の手術です。ふつうの脳外科医なら、正常な部分をよけて、腫瘍だけを取り出そうとします。しかし、それでは時間もかかるし、出血量も多くなります。その脳外科医は、なんと腫瘍の含まれる前頭葉の半分ほどを、ごそっとまとめて切除したのです。これだと時間も短く、出血量も少なくてすみますが、正常な部分もかなり取ってしまうので、あとが心配です。私は麻酔が覚めるかどうか、気が気ではありませんでしたが、無事に意識がもどってほっとしました。ですが、切除された部分に入っていた記憶や能力は、すべて失われたことでしょう。
手術のあと、その脳外科医が切除標本から腫瘍をより分けているのを見ましたが、それは茶碗蒸しの中からぎんなんを取り出しているようでした。脳は固めの豆腐かフグの白子のようなので、指で押さえれば簡単につぶれるのです。
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