名刺ゲーム

人はなんで噓をつくか? 自分の罪を隠すためですよね?

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。最初に部屋に招き入れられたのは5人の男女。どうやら全員、過去に神田と関係のある人物らしい。謎の男は神田の過去を言い当てて、揺さぶりをかけていくのだが……。人気放送作家がテレビ業界を舞台にサラリーマン社会の悲哀を抉り出す衝撃作。

5 玉虫色のスカーフの男

 世の中には二種類のタイプがいる、なんてよく言う話ですよね? ゴキブリ、嫌いでしょ? ゴキブリがなぜ人間にあそこまで嫌われるのか? あの生命力じゃないかと思ってるんです。ゴキブリって頭がなくなっても一週間は生きるくらいの生命力があるって言われる。スリッパで叩き潰してもまだ体を動かそうとする、生きようとするあの生命力の強さに、人間は恐怖心を抱いている気がするんです。

 そんな嫌われ者のゴキブリを見つけてスリッパで叩き潰す時にも、二種類のタイプがいる。躊躇なく完膚なきまでに叩き潰せるタイプと、一瞬の迷いが出るタイプ。この躊躇ってね、いくら嫌われ者相手でも一つの命を自分の手で簡単に殺めていいのかというものね。私はね、躊躇なく叩き潰せるタイプです。あの茶色い体から内臓が全て飛び出るほど潰すことができる。だって、世の中で嫌われ者と皆が決めつけている相手を殺すのに躊躇する時間が無駄。その躊躇のせいで誰かがまた不快感を感じるんです。

 今、ゴキブリにたとえて気持ち悪かった? 不快すぎる? じゃあ、こちらの話はどうですか?

 一九九二年にアメリカで、テレサちゃんという無脳症の赤ちゃんが生まれたんですよ。テレサちゃん、呼吸や心拍をコントロールする脳幹より上の脳が形成されなかった。先に言うと、その子は生まれてから十日間でその短い命を終えたんです。両親は生まれる前からテレサちゃんの脳のことは分かってた。だけど中絶せずに産んだ。ある決心があったから。それはね、生まれたあとに、テレサちゃんの臓器を必要とする他の赤ちゃんに提供しようと決めていたから。

 強い親です。ただし、テレサちゃんが自然死すると臓器が移植に適さないものになってしまう可能性があった。だからテレサちゃんが生きているうちに、臓器提供をしなければならない。テレサちゃんの両親は生まれる前に、裁判所に「生まれた時からすでに死んでいた」とみなすことを願い出ていた。でもね、裁判所はこの申し立てを却下しちゃったんです。臓器は誰にも提供されることなく、テレサちゃんは十日目で亡くなった。

 この話を聞いて、あなたはどちら側に立ちます? もし親だったら、どうする?

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この連載について

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名刺ゲーム

鈴木おさむ

家族も部下も切り捨て、人気クイズ番組のプロデューサーまで上り詰めた神田達也。ある夜、息子を人質にとられた神田は謎の男から「名刺ゲーム」への参加を命じられる。だがそれは、人間の本性を剥きだしにしていく《狂気のゲーム》だった――。WOWO...もっと読む

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