性交時の異物感に耐えられない

今回、牧村さんのもとには、「挿入を伴うセックスをしたいと思いません」という女性からのお悩みが届きました。自分の複雑な性的嗜好に将来の不安を覚え、悩み続けてきた彼女に、牧村さんが自由になるためのアドバイスを送ります。


※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。

今回は、「男性を相手に膣イキができない。将来が不安だ」とおっしゃる女性の方からのご投稿をいただきました。膣イキができないからといって女性の将来がないわけないじゃないと私は思うのですが、ご本人の意思も尊重しつつ二つのキーワードから考えていきます。「膣オーガスムの神話」、それから「ブリッジ・テクニック」です。

イケないことに悩む女性(ほか、女性器持ちの人)だけでなく、イかせられないことに悩む女性愛者(たとえば女性を愛する男性や、女性を愛する女性)も。さっそく、ご投稿から考えていきましょう。

こんにちは。まきむぅさんとまきむぅさんの文体が大好きな大学生の女子です。 自分の性についての不安を相談させて下さい。長文で恐縮なのですが読んで頂ければ幸いです。デリケートで、もしかしたら過激な内容かもしれませんがお許し下さい。

私の恋愛対象は男性で間違いないと思います。しかし私は挿入を伴うセックスをしたいと思いません。

理由は主に2つあります。まず1つ目は、異物が膣に入ってくる感覚に耐えられないと思いますし、痛みが苦手だからです。タンポンを使用することも出来ないし膣を使った自慰もできません。2つ目は、男性に性的興奮を覚えても、それをオカズにイクことが難しいということです。私が性的な快楽を得るために必要とする、つまり自慰をする時にオカズになり得るのは、実は女性の場合が9割くらいなのです。なので、男性とのセックスでオーガズムを感じるのはほぼ出来ないと思います。

これらを克服しなければ、他の人達がしているような、好きな人と行う気持ち良い経験ができないと同時に、将来妊娠・出産も出来ないということになるので不安です。相手が望むのであれば挿入するセックスをしたいですし結婚したら子供も欲しいな~とぼんやりとですが考えてます。一般的に前戯と呼ばれている、触り合いのような、挿入を伴わない性的な行為は楽しめるのですが、上記の理由で挿入は出来ません。

ちなみに、恋愛対象は男性と書きましたが、性的な行為は男性とも女性ともしたいと感じるので、性愛対象は男性と女性両性だと思います。「恋愛対象:男性。性愛対象:男性と女性。オーガズムを感じられる性:ほぼ女性。」という3つのことに、自慰行為を覚えた5歳くらいの時に気が付き、それから大人になった今までずっと変わっていません。女性を想像してクリトリスだけを使う自慰もやめられません。なんとか男性のことを考えて膣を使って気持ちよくなれるようになりたいのですがもう不可能だと思っています。

複雑な上に内容が内容だけあって、あまり友達にも話せずにいます。将来への不安がいつも頭の片隅にあるのですがどうしたら良いと思われますか。

(全文そのまま掲載しました)

よくぞここまで、しっかり考えてお書きになりました。きっと、ご自分のことをここまで把握なさるのにも、ずいぶん時間をかけたのではと想像します。ご投稿者の方がご自分をここまで客観視できること自体、先人たちが築いた「恋愛対象」「性愛対象」「男性/女性」といった概念のおかげなのだと思います。

そう。概念です。

「自分が自分の体を使って性行為の際に何を感じるか」ってことは、本来、極めて個人的かつ感覚的なものですよね。だけれども、個人が何を感覚するかということを把握し管理しなければ気が済まない人たちが、歴史上色々いたわけです。たとえば……

「性別に関わらず、性行為を楽しんではならない。興奮しないよう、快感を得ないよう、子を成すために最低限のことだけしなさい」
(中世ヨーロッパのキリスト教)

「女性が性的快感を知ってしまうと、嫁ぐまで処女をキープすることができない。クリトリスを切り取り、女性器を縫合しておくことで、嫁ぎ先に処女を証明しよう」
(近現代までアフリカの一部で続くFGM/女性器切除)

「膣イキは男性に媚びて生きる女性が男性のために演じるうちに自己催眠にかかってしまったことによるヒステリー的サバイバル術にすぎない。自立した女性はレズビアンセックスでクリトリスによるオーガズムを感じることができなければならないし、膣イキする女性は本物のレズビアンとは言えない」
(1970年代のレズビアン・セパレイティスト)

「貴女はまだ膣イキしたことがないんだね!大丈夫、年上の経験豊富な男性に開発してもらえば治りますよ^^私でよければなんでも相談してください^^;」
(現代日本のYahoo!知恵袋とかにたまにいる、なんとなくいい人感出してるけどベストアンサーは得られないおっさん)

こういう歴史を……性感という、極めて個人的かつ感覚的な領域に属するものを社会に引っ張り出して概念化して外野からあーだこーだしてきた歴史を……ご投稿者の方は、ご自分の中で繰り返していらっしゃるように思うのです。

「これらを克服しなければ、他の人達がしているような、好きな人と行う気持ち良い経験ができない」

「相手が望むのであれば挿入するセックスをしたいですし結婚したら子供も欲しいな~とぼんやりとですが考えてます」

「他の人達が……」「相手が……」と、具体的個人を指すわけではない想像上の誰かを想定し、「克服しなければ!」「○○をやめられない……」などと、自分で自分に無理をかけてしまっていらっしゃるのではないかしら。

その、自分の頭の中の「相手」「他の人達」から自由になるために、私がいつもすることは一つ。具体的な個人の話に耳を傾けることです。ってことで、ここでご登場いただきましょう。「膣オーガズムの神話」著者、アン・コートさんです。

アン・コートさんが本を書いた1970年、ご投稿者の方のように「膣イキができるようになりたい」と考える女性が何をしていたと思いますか?

精神分析家のもとでカウンセリングを受けていたんです。

「クリイキする女性は精神的発達が遅れている。成人女性として正しい発達に導き、膣イキができるようにしよう」みたいな理屈ですね。

こう考えられていた当時、多くの婦人科医や精神科医は、男性でした。女性が高等教育を受けて医師になることは、不可能ではないものの、難しかった。

それでもコートさんは、男性中心だった学術の世界に挑み、解剖学の資料にあたり、神経が膣内よりもよっぽどクリトリスの方に集中していることを突き止め、こう書きました。

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ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

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コメント

rokunai 「現代日本のYahoo!知恵袋とかにたまにいる、なんとなくいい人感出してるけどベストアンサーは得られないおっさん」 1年以上前 replyretweetfavorite

kazuhime1582 これ!私の悩みに近い。 1年以上前 replyretweetfavorite

yu_llri 性別年齢関係なく、少なからず思い込みがある人は読むべき。オーガズムに興味のある人ない人も。→ 1年以上前 replyretweetfavorite

maihama_ddr 性的対象は男性だけど、おかずは女性 わかるな~わかりすぎて死ぬ~ 1年以上前 replyretweetfavorite