ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ /キャシー・ハーシュ=パセック
失敗覚悟で挑戦する自信を持つことは重要
「失敗は成功に到達するまでの道標である」 (C・S・ルイス〔作家〕)
失敗は敗北でなくチャンスと捉えなければならない。私達はいくつかの〝段階〟を経て粘り強く挑戦しようという自信を獲得する。実際にはどういうことが展開しているのだろうか?
自分の実力を相対的に見極める……人と比べることの功罪
私達が他者と自分を比べ始める時「一体私はどのあたりにいるのだろう?」と問う。心理学者はこれを社会的比較と呼ぶ。小学校の時「私はあの子より頭がいいけどあの子ほどではない。私はあの子より足が速いけどあの子よりは遅い」というように、他者との比較にとてつもないエネルギーを費やしていたのを覚えている人もいるだろう。他者との比較は自分は何が得意で、何が得意でないか現実的に評価する練習になる。自信はある特徴について他者と比べた時、自分がどの位置にいるかを確認することで形成される。数学が得意かどうか判断する場合、子供は決して上級生でも下級生でもなく同じ学年の子と比べる。これは子供に限ったことではない。大人も社会的比較を行う時は自分と似たような人々を選ぶ。そして大抵の場合、相手の方が自分よりもできるように思ってしまう。これは必ずしも悪いことではない。クラスの中で一番、音読のうまい子と比べて自分はまだまだだと思えれば、更に努力してもっと音読をうまくなろうという気持ちが湧く。
一方子供が青年期に突入すると、時に取り返しのつかない結末を迎えることもある、危険な行動をわざわざするようになるからだ。どうしてそんなことをするかというと、自分の友達に印象づけたいという社会的な理由が大きく関わっている。これもまた「自分がどの位置にいるか」を確かめる行動の一種であり、仲間にどう見られるかがとても重大な関心事で、その結果グループで危険な行動へ走るのである。少年達が集まって車を走らせれば事故の危険性は高まり、仲間のうちの誰かが性交渉を持つようになるとあっという間にグループ全体に広まる。
青年期の脳の発達について研究しているテンプル大学のラリー・スタインバーグは、危険な行動に走り誤った自信が高まるのは、社会的・情動的な情報を処理する脳の部位が生物学的に再構築される時期にさしかかったためであると説明している。青年期を過ぎて成人になると、このような行動は消えてゆく(この時期の子供を持った親ならば経験していることだと思うが)。脳の認知機能がより高まって感情の興奮をコントロールできるようになるからである。こうして青年期特有の「グループ内での自分の位置」を非常に気にする行動規範は影を潜めてゆく。
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アメリカの学習科学・発達心理学の第一人者が提唱する「子育て成功への道」
この連載について
ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ /キャシー・ハーシュ=パセック
私たちは勉強ができれば「成功」、お金があれば「幸せ」と決めつけたり、反対に、頭の悪いから「成功」は無理、安楽に生きられれば「幸せ」と思い込んだりしていないでしょうか? しかしそれは、きわめて一面的な「成功」と「幸せ」の定義です。もっと...もっと読む
著者プロフィール
ペンシルバニア大学でPh.D取得。テンプル大学教授。ブルッキングス研究所シニアフェロー。アメリカ心理学会他数多くの学会から長年の卓越した貢献に対して表彰されている。やはりロバータ・ミシュニック・ゴリンコフと共著の『EinsteinNever Used Flash Cards』は世界中で翻訳され、2003年に出版された最も優れた心理学書に贈られるBooks for Better Life Awardを受賞。卓越した研究業績だけではなく、認知心理学・発達心理学の基礎的な研究を教育に活かし、社会に貢献するために様々な重要なプロジェクトに関わり、世界から注目されている。ハフィントンポストの招待ブロガー、ニューヨークタイムスなどアメリカ全国紙での幼児教育・幼児発達についてのスポークスパーソンとしても活躍している。
コーネル大学でPh.D取得。デラウェア大学教授。米国心理学会、科学的心理学会から多くの賞を受賞。研究領域で最も権威ある学術誌『Child Development』の編集委員を務め、150を超える論文、14冊の本とモノグラフを執筆した。優れた研究者である一方、発達科学の知見を一般の人々に広めることに強い情熱を傾け、言語や空間認識の発達、プレイフルラーニングについて親や教育者向けの著書を出し、ラジオ・テレビ・新聞・雑誌などのメディアにも度々登場。世界各地で講演活動も行っている。また、学びと遊びの科学を楽しむイベント Ultimate Block Partyを共著者のキャシー・ハーシュ=パセックとともに始め、NYセントラルパークに5万人もの人を集めた。この企画は現在アメリカ主要都市のみならず世界の都市に広まっている。