僕らだって扉くらい開けられる

【最終回】
少女を誘拐した犯人は逮捕され、町に平穏が戻ってきた。
事件を解決した超能力者たちの活躍は秘密にされたまま、それぞれが日常に戻っていったが……。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント、ついに完結!

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 —県警は昨日、県内で発生した女児誘拐事件に関わったとして、同県内在住の美術館経営者を、未成年者略取・誘拐の疑いで逮捕しました。

 —逮捕されたのは、敷島喜三郎容疑者・八十歳で、今年六月に何者かによって連れ去られた、音無和歌ちゃん・四歳の誘拐に関与した疑いが持たれています。

 —今月二十三日、敷島容疑者の経営する私設美術館を訪れていた一般客から「誘拐されていた女児に似た子供がいる」との通報を受け、警察が同美術館を捜索した結果、施設内の一室に監禁されていたとみられる女児を発見しました。そのため、経営者である敷島容疑者に対し、任意で聴取が行われていましたが、昨日になって、誘拐に関わった疑いが強いと見て、逮捕に踏み切ったとのことです。

 —敷島容疑者は、容疑について、黙秘を続けているということです。

 —なお、発見された女児に、けがなどはありませんでした。

 箸でつまんでいたもやしを取り落とし、今村は、はっと我に返った。テレビでは、連日、女児誘拐事件の続報を報道している。全国区の大事件などめったに起きないこの辺りでは、例大祭と事件のダブルパンチで、てんやわんやの大騒ぎになっている。

「超能力、とか言わなかったな」

 今村の向かい側で、北島が呆けたような声を出した。

「超能力なんて言ったら、大騒ぎになるじゃないですか」

「ちっとは騒げって思わないか?」

「思わないですよ」

 北島と客先に出向いた帰り、遅い昼食になったせいか、三葉食堂にいる客は今村と北島だけだった。厨房では、ランチタイムを乗り切った老夫婦が、一緒になってテレビを見ていた。

「そら、超能力者が、超能力で女の子助けた、なんて言ったら、大変なことになっちまうよなあ」

 マスターが、今村に向かって、わはは、と豪快に笑った。今村は、ほんとにそうです、と生返事をする。

 結局、事件の後始末は、金田に一任することになった。金田の父は地元警察署の副署長らしく、今回の事件の捜査本部にも加わっている。いろいろ、表沙汰にできない部分をなんとかしてくれるそうで、今村らに迷惑は掛けない、と約束してくれた。事件に超能力者が関わっているということも、世間に知られることはなさそうだ。

 今村は、すみません、タレください、と手を挙げた。はいはい、と、オバちゃんが辛味ダレの入ったボトルを持ってくる。事件以来、辛味ダレは卓上から姿を消し、欲しい人が手を挙げて申告するシステムに改められた。面倒だが、あんなことがあったのだから、仕方がない。

「でも、ほら、今村君。やっぱり救世主になったじゃないの」

 オバちゃんに救世主、などと言われて、今村は派手にむせた。そういえば、いつぞや、そんなことを言われたことがあったかもしれない。

「別に、世界なんか救ってないですよ」

「母親にとってね、子供は世界のすべてなんだから。世界を救ったのと同じよ」

 そういうもんですか、と、頷く。

 今日は、食堂にサトルの姿はない。なんでも、講師の初仕事で、外出しているらしい。オバちゃんの機嫌がいいのは、そのせいもあるかもしれない。母親か、と、今村は少しだけ納得した。

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僕らだって扉くらい開けられる

行成薫

もしも突然、「超能力」に目覚めたら・・・? 誰もが一度は抱いたことがあるそんな妄想が、ある日とつぜん現実になってしまった五人。さえない人生が一変!と思いきや、どれもこれも「制約」つきで、不都合満載、トラブル多発・・・こんな能力、いった...もっと読む

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