取るに足りない能力かもしれないけれど

【第48回】
一人ひとりの能力は取るに足りないものかもしれない。
でも、全員で力を合わせたら、誘拐された少女を無事に救い出すことができた。
母娘の涙の対面の前で、警察に連れてゆかれようとする犯人が語ったことは……。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


「あれは、この辺の所轄署の副署長でね。わざわざ現場に出張ってくるなんて、どうかしておるな」

 希和のすぐ目の前にまで近づいてきた敷島は、緊張感を漂わせることもなく、なんの気構えもなく、唐突に話し出した。神社の境内で会った時と同じだ。

「そう、なんですね」

「よく、ここがわかったもんだ」

「私一人では、わかりませんでした」

 敷島が、希和の視線を追って、振り返る。視線の先には、津田を筆頭に、超能力者六名プラス一名が、険しい顔で敷島の様子を見ている。

「大した超能力者はおらんようだが」

「知っているんですか、あの人たちを」

「そりゃそうだ。日本にいる超能力者のことは、調べ上げておる」

「和歌もですか」

「もちろんだ。その子は、彼らのような、役に立たん能力者とは、格が違う。テレパシーを自在に操れるし、制約も限界もなく、あんたとしゃべっていただろう。突出した超能力だよ」

 でも、と、希和は、敷島の言葉を打ち消した。

「彼らの協力があったから、和歌が戻ってきたんです。私からしたら、みなさん、神様のような存在です」

「まさか、隠し部屋を見つけられるとは思わなんだ。取るに足らん能力も使いよう、ということだな」

 敷島が、頰を引きつらせて、歪んだ笑みを浮かべた。自虐めいた笑いだったが、どこか、楽しそうでもあり、嬉しそうでもあった。そして、寂しそうにも見えた。

「神様のような存在なのは、あなたも同じです」

「私が?」

「和歌を連れて行ったことに関しては、もちろん、怒りと恨みしかないですし、変な薬を飲まされたことも、悔しい。でも」

 希和は一息つき、また、涙が溢れ出そうになるのを、必死に堪えた。

「もし、あの時、和歌とテレパシーで会話ができなかったら、私は、きっとつぶれていました。寂しかったし、辛かった。孤独で、誰とも話ができなくて」

 和歌を抱く手に、力がこもった。今でこそ、母として強くなったとは思うが、言葉をしゃべらない我が子を抱えた生活は、希和を精神的に追い詰めた。夜、和歌の寝顔を見ながら、細い首に両手を回したことも何度かあった。あのまま和歌がしゃべらずにいたら、罪悪感と絶望感に押しつぶされて、最悪の選択をしていたかもしれなかった。

 ほんの一瞬でも、我が子を殺(あや)め、自らも命を絶とうと考えたことは、「あの時は大変だったから」では済まされない。闇の中に放り込まれたような気持ちは、深い深い傷となって、今も希和の心に残っている。たとえ、和歌が自由にしゃべることができるようになっているにしても、テレパシーが必要だったのがたったの半年であったとしても、深い闇の中から希和を救い出してくれたのは、和歌が授かった超能力に他ならなかったのだ。

「だから、その一点だけは、感謝しています」

 敷島は、少し驚いた表情を見せたが、やがて、またすぐに、元の顔に戻った。

「そうか」

「勘違いしないでくださいね。基本的には、恨んでいます」

「無論、母親から娘を奪うことは残酷だ。わかっている。恨みも買うだろうな。だが、私も信念をもってやったことだ。これから世間にいくら後ろ指を差されようと、甘んじて受ける。だから、あんたに頭は下げんよ」

「別に、謝ってほしいなんて思っていません」

「その子の能力は、特別だ。奇跡なんだ。いいかね、これからの世の中は、機械やコンピューターが発達して、どんどん人間が捨てられていくのだ。役立たずだとね。でも、その子のテレパシーは、どんな機械にも技術にも負けない、素晴らしい力だ。それは、我々人間の価値を一段上に押し上げるものだ」

「テレパシーが、ですか」

「そうだ。人間は誰しも、超能力を持っている。研究が進めば、多くの人間が、自らの力を引き出すことができるようになるだろう。そのためにはまず、超能力というものを世間に知らしめなければならん。奇術師に毛が生えたようなニセモノとは違う、本物の超能力者が現れなければならんのだ」

 敷島は、次第に、まくし立てるようにしゃべりだした。超能力の研究など、バカげている。もしくは、金持ちの老人の妄想に満ちた道楽だ。敷島は、ある種、狂っているのかもしれない。けれど、目を見てしゃべっていると、その奥にある恐ろしいほど冷徹な正気を感じて、希和は背筋が寒くなった。

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