洞窟ばか

よみがえった奇跡の洞窟、沖永良部島の「銀水洞」

28歳の時、洞窟に出会い「自分がやりたかったことは、これだ!!」と洞窟病にかかってしまった吉田さん。当初は洞窟の入り口を見つけられず空振りに終わることも多かったが、ホームグラウンドとなる未踏の洞窟「霧穴」と出会ったことでメキメキと洞窟探検スキルを身につけていった。そして、探検家としても洞窟ガイドとしても経験を積み、洞窟探検をガイドする会社を立ち上げ、洞窟ガイドの育成を依頼された沖永良部島で、思わぬ発見をする。

死んでいた洞窟が、生きてる状態によみがえっていた!?

 沖永良部島がオレにとって思い出深い場所である、もうひとつの理由。
 それは「銀水洞」というすばらしい洞窟を〝再発見〟できたためである。
  ガイド講習をするために沖永良部島の主要な洞窟にひと通り入ったことはすでに話したが、銀水洞もそのひとつだった。

 ただ、1回目に行ったときには、何の魅力もない普通の洞窟だった。唯一、目に留まったことといえば、巨大なホールの底にリムストーンプール(棚田)がたくさんあったことぐらい。
「ここに水がたまったらきれいだろうな」とは思ったが、実際には泥がたまってぐちゃぐちゃしているだけで、きれいでも何でもなかった。
「広い空間があるだけで、ほかには目を引くようなものは何もない」
 それが銀水洞の第一印象だった。
 ところが、講習の事前調査のため、ふたたび銀水洞を訪れたとき、その場にひっくり返るぐらいにビックリした!

 なんと、ドロドロぐちゃぐちゃだったホールのリムストーンプールのすべてに、透明できれいな水がたまっていたのだ。
 まわりの鍾乳石も、前回訪れたときは完全に〝死んだ状態〟だったのが、真っ白な〝生きている状態〟によみがえっていた(鍾乳石を「生きている」「死んでいる」というのは洞窟をやる人間の独特の表現。「生きている」とは、地下水に含まれるカルシウムなどによって表面が常にコーティングされて、真っ白できれいな状態がキープされていること。「死んでいる」とは、水が涸れた洞窟で汚れたままの状態になっていることを指す)。
 生まれ変わった銀水洞をこの目で見たとき、オレは沖永良部島に来てはじめて、「すごい!」と腹の底から感動した。

 なぜ水が戻ったのか。その理由はわからない。
 その後、銀水洞には講習や撮影で何度も入っているが、オレが最初に見たようなドロドロの涸れた状態になることはなかったし、水が減る様子もない。
 最初オレを案内してくれた地元の知り合いは、きれいになった銀水洞の写真を見て、「こんな景色になっているの!?」と驚いていた。
 まさにミラクルとしか言いようがない。 よみがえった銀水洞を〝再発見〟したオレは、講習の事前調査のことはすっかり忘れて、とりあえず「カメラを持って来なければ!」と洞窟を飛び出して宿に戻った。

 カメラを手にふたたび銀水洞に入ったあとは、写真を撮りまくった。
 そのとき、持っていたライトをホールの底のプールに何個か入れてみたら、ブルーに光ってめちゃくちゃキレイに撮れることがわかった。

「すべてのプールにライトを入れて撮ったら、とんでもなくキレイな写真が撮れるんじゃないか!?」
 そう思うと居ても立ってもいられなくなり、ふたたび洞窟を出ると、今度は島中の電気屋を回って、懐中電灯やキャップライトなど持ち運べる照明をすべて買い占めて、その足ですぐに銀水洞に舞い戻った。
 照明の数はたしか30個ぐらいだったか。そのほとんどはもちろん防水ではないので、ジップロックに入れて申し訳程度の防水処理をして、銀水洞のプールの中にドボン。

「うぉぉ~、すげぇ~!!」
 撮った写真をデジカメのディスプレイで確認した瞬間、オレは興奮のあまり絶叫した。そこに写っていたのは想像していた以上の絶景だった。
 それまでも洞窟内での撮影はしていたが、水の中にライトを入れて撮ったのは、この銀水洞がはじめてだった。

 その後、オレの写真熱は取り憑かれたように一気に高まり、「もっといいカメラがほしい」とボディだけで30万円、レンズを含めると合計100万円ぐらいかけて、カメラを新調。
 さらに「もっとちゃんとしたライトを使えば、ものすごい写真が撮れるはず」と、1灯5~6万円もする撮影用の防水照明にも触手を伸ばした。プールの数からすれば、理想は30個ぐらいほしかった。

 しかし、6万円×30個=180万円を一度に出費することは、さすがのオレでも難しかったので、自分で買い揃えたり、まわりの洞窟仲間に「お前も買えよ!」と買わせたりして、すこしずつ数を増やしていった。

1枚の写真が伝えられること

 また、最初のときはオレ一人だったので、ただ景色を撮るだけだったが、「モデルがいたほうがスケール感がわかるはず」と、ガイド講習のたびに講習生を銀水洞に連れて行き、撮影をするようにもなった。

 撮影中は講習そっちのけで、現場監督のように「お前はそこに立て!」「お前はあそこだ!」と講習生にビシバシと指示を出し、パシャパシャとシャッターを切り続けた。
 講習生は水に浸かってずぶ濡れ状態だったので、しばらくすると寒くてブルブル震えてくるのだが、彼らが動くと写真がブレてしまうので、オレはカッカして「お前ら、動くな!」と怒鳴りつける始末。
 相当にひどいことをしていたなと、今ではちょっと反省している。

 ちなみに、講習のときに毎回銀水洞で撮影していたことを、講習生の一人が役場の担当者にぽろっと漏らしたらしく、あるとき担当者から「講習中の撮影はなるべく控えてください」と注意を受けたことがあった。
「マズい」と思ったオレは、「洞窟内での写真撮影も、ガイドにとって必要なスキルなんです」とか言ってごまかしたのだが、この言い訳はあながち嘘でもない。
 お客さんを洞窟に連れて行き、その非日常的な空間できれいな写真を撮ってあげることができれば、お客さんが喜ぶことは間違いない。
 その写真は、きっと一生の思い出になるだろう。 また、寒がる講習生を無理やり立たせて撮った写真が、のちのちさまざまなところで実を結ぶことになる。

 最初は役場から「この写真、役場のポスターに使っていいですか」と頼まれた。
 もちろん断る理由は何もないので、即OKした。
 その後、今度は島の銀行からやはり「ポスターに使いたい」という依頼が来た。そのときも「島の人の役に立つならば」と、無料で写真を提供した。
 そんな風にオレが撮った銀水洞の写真があちこちで使われるようになったのだ。

 さらに、講習を修了した島の新人ガイドたちがホームページなどを作るときにも銀水洞の写真は大活躍した。
 島外の人たちに沖永良部島の洞窟の魅力を伝えて、「行ってみたい!」と思ってもらうには、どれだけ言葉を書き連ねるよりも、1枚のきれいな写真のほうが何十倍何百倍もの圧倒的な説得力を持つ。
 その意味で、銀水洞の絶景写真は、洞窟ツアーのメインビジュアルとして最高の素材だった。
 寒い中、モデルをさせられた苦労がここに来てついに報われたわけだ。

 極め付きは、そのころすでにテレビ番組の撮影サポートの仕事をちょくちょくしていて、その伝手で銀水洞の写真をテレビ局のディレクターに見せたところ、テレビの取材まで来てしまった ことだ。
 それはTBS系列の『飛び出せ!科学くん』という番組で、そのオンエアを通じて銀水洞はついに全国区になる。
 そのときの撮影がまたすごかった。
 テレビ番組なのでそれなりに予算もあり、これまでにないぐらいの数の照明を持っていくことができたのだ。
 そんな膨大な照明で照らした銀水洞の景観というのは、何度も入っているオレ自身でさえもはじめて見るもので、 「やっぱり、ここはすげぇ……」 とあらためて感動し、絶句してしまった。

 そのとき、ディレクターから出た言葉は今でも忘れられない。

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洞窟ばか

吉田 勝次
扶桑社
2017-01-08

この連載について

初回を読む
洞窟ばか

吉田勝次

『クレイジージャーニー』『情熱大陸』などテレビで話題沸騰の洞窟探検家・吉田勝次。国内外で挑んできた洞窟は1000を超える。「なぜ洞窟か?」と聞かれれば、「そこに未知の世界があるから」。 17㎝の隙間があれば身体を押し込み、泥にまみれ、...もっと読む

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コメント

moa1mi1k #スマートニュース 7ヶ月前 replyretweetfavorite

akuminn これ、面白いヽ(*´∀`) https://t.co/STjeIZmSOw 7ヶ月前 replyretweetfavorite