女子アイスホッケーアスリート「アン」の人生冒険物語。

【小説の展開】アメリカでアイスホッケーに出会った「アン」はジュニアを経て全米大学選手権で活躍する。日本代表「スマイルジャパン」はアンを帰国させるがソチは全敗、アンが所属する事になった社会人チームもリンク閉鎖の危機。女子アスリートの生活は挫折だらけ。しかし人生は奇なもの。予想だにしない話が展開してゆく。舞台は日本、アメリカ、オリンピックへ。夢と希望を紡ぐアスリートの冒険物語。



主人公の無瓢 庵(ムヒョウ アン)。
背番号99。23歳。アスリート&中華料理のシェフ見習い。

漫画協力はたのさとし 大阪在住。野球漫画「球世主!!」全3巻(双葉社)大阪グルメ人情漫画「ナニワめし暮らし」既巻2巻(双葉社)※3巻は電子書籍で2018年2月9日配信。続刊順次配信予定。twitter →@hatanosatoshi

小説の前に・・・アイスホッケー観戦ガイド

▷アイスホッケーのココがおもしろい!

プレイの自由度が高く、最高のスピードがあり、格闘技的要素が詰まったボールゲーム。それがアイスホッケーです。
パックをスティックで思いっきり打つと、男子なら時速180km(野球のピッチャーでもこのスピードは出ません)。ピッチャーライナーのスピードで、鯖缶くらいの大きさと重さのパックが飛ぶ。そう思えば、迫力もわかるでしょうか。

猛スピードでぶつかり合うホッケーの迫力は半端ありません。男子プロでは殴り合いさえ公認されています。ボクシング以外のスポーツではアイスホッケーのみルールで規制されていないのです。チームメイトが激しいヒットを受けて怪我をしたとかしそうになったりすると、ベンチから全員飛び出しての殴り合いになります(氷上の格闘技と言われる理由です)。

リンクの周囲は高いフェンスに囲まれていてパックが外へ出ないのでプレーが止まることがありません。ゴール裏にもフェンスがあって、外れたシュートさえ跳ね返ってくる。わざと壁にバウンドさせるパスも可能です。スティックだけでなく手や足を使ってパスもできます。

▷ざっくりとしたルール

超高速サッカーと格闘技ラグビーを足したようなもの
・試合に出る人数は、1チーム=フィールドプレーヤー5人とゴールキーパー(ゴーリー)の6人
・ボールの代わりに鯖缶くらいの大きさと重さの「パック」をスティックで操る
・スケーティングは男子で時速50キロ、女子で40キロ以上出る(ウサイン・ボルトより速い)
・コートの大きさは、バスケットコート4つ分くらい
・ゴールの大きさは、セミダブルのベッドを横にして置いたくらい
・試合時間は、1ピリオド20分を3回。プレーが止まると時計も止まるので、実際の経過時間は40〜45分くらいです。サッカーのハーフと変わりません。しかしそれを3回やります。

プレーヤーは攻めたり守ったり臨機応変に動きます。ディフェンスだってサッカーより断然得点に絡みます。腰を落とし膝を曲げた姿勢で、ダッシュ、ストップを繰り返します。接触プレーも多く体力の消耗が激しいので、選手の交代はいつでも何人でも何回でもオッケーです(1分間も動いたらヘロヘロになるので、めまぐるしく交代します)。

さらに詳しい観戦ガイドはコチラをどうぞ。

さて、 小説「スマイル」第一話。お楽しみください。


小説「スマイル」第1章 

1.特製チャーハンとアイスホッケーの物語
(アンの話から)

 私は炎に包まれる中華鍋を振り、ご飯と具を空中に放り上げた。すると、ひとつのエビが焼き豚を押しのけ、空いた場所にふたつめのエビが入り込んだのである。

「こうやれば、ドリブルの後ろにスペースを作れるわ」

 私はご飯にまぎれて動くエビと焼き豚に、ソチオリンピックのアイスホッケー女子、カナダ対フィンランオの試合を思い起こしたのだ。


 ソチオリンピックの時点でカナダは世界ランク1位、身長185センチなんて選手もいる爆弾級のチームだったが、フィンランドはひけをとらず、試合は息もつかせぬ展開が繰り返された。
 結果としてはカナダが勝ったが、フィンランド選手のスケーティング技術と、ディフェンスを引き吊り、走り抜けた背後にパスを戻す展開などは、ほれぼれする玄人好みの戦術だった。 
 やってみようとして、このプレイはなかなかにむずかしい。ところが鍋の中のエビは簡単にごはんをかき分け、仲間にパスを渡した。
 私は、なるほどと思ったのである。
 コツは「揺り動かし」かもしれない。
 たまたまの鍋振りでそうなったが、
 エビになって考えてみると、ちょっとわかったのだ。

 試合を解説していた、鈴木隆人氏の言葉も思い出した。
「フェンス際へパックを運んでから、鋭いフェイントで中央に切り込む。ディフェンスをブロックすると背後にスペースが空く。そこに二人目が入ってパスを受け、すかさず三人目が続く。大型ディフェンスを破る見事な戦術です」
 縦横無尽に動き、守備の連携を崩すクリエイティブな動きとパス、それを支えるパックコントロール。
 私は鍋を振ってもう一度エビを動かそうとしたが、ご飯がかぶさって、さっきのようにはならなかった。まあ、焼きめしだ。そうそううまくいくはずがない。品川リンクへ行ったらやってみよう。

アスリート兼中華料理のシェフ見習い

 フロアチーフの葛西さんが厨房に顔を突っ込んできた。
「海鮮餃子リャンガー! 麻婆豆腐イーガー! 特チャーはまだか?」
 私は鍋を声を張り上げた。
「はい、ただいま!」
 ここ丸の内の中華料理屋「豊楽」の特別チャーハンは有名すぎる裏メニューである。
 一品料理に使う芝海老と自家製焼き豚で焼きめしを作ったところ好評で、顧客ご指名裏メニューとなったのだ。
 それで千円。
 お値ごろ感日本一、いや世界一だ。

 私は鍋をぶんぶんと振って、特チャーを仕上げた。 
 同い年の見習いシェフ、康夫クンが隣でニンニクを揚げている。
 康夫クンは言った。
「どこにそんな力があるのかねー、いったい」
この男子、私が鍋を振り始めると、毎度同じことを言う。
 彼も鍋振りを練習しているが、まだ担当させてもらっていない。昨今の日本男児の典型、非力な草食系だ。

「まあがんばり給え」
 私は笑ってやるのだが、私こそ華奢に見えるのだ。
 身長160センチで体重58キロ。
 Mサイズのワンピースだってなんとか着られる。
 ところが特大プロ仕様の鉄鍋を片手で振れるのだ。

 なぜって?
 私はアイスホッケーの選手で、強いシュートを打つために手首の鍛錬を10年以上続けてきたからである。
 いろいろと思案しながら鍋を振り続けたので、特チャーはうまい具合に仕上がった。中華おたまで掬って皿に移し、声を上げた。
「特チャー、イーガー上がり~」
 葛西さんが皿を受け取りながら言った。
「アンちゃん、上がっていいよ。練習だろ」
 壁の時計を見た。夜の9時。
「そうですね。あがります~」
 私は未だうら若き22歳である。しかしいろいろな人生模様が移ろい、アイスホッケーの選手になり、丸の内の中華料理店「豊楽」の厨房で働いている。
 康夫クンのニンニク丸揚げが香ばしいキツネ色をしている。私はひとつを口に放り込み、ひと噛みしてゴクリと飲んだ。
 康夫クンはお手上げのポーズを取った。

*実在の人物名、場所名、施設名が出てきますが、物語は架空です。


スマイル

松宮宏
NextPublishing Authors Press
2018-06-22

この連載について

小説「スマイル」。女子アスリート冒険物語

松宮宏

「スマイルジャパン」に架空の選手「アン」を加えて進む小説。アメリカでアイスホッケーに出会った「アン」はジュニアを経て全米大学選手権で活躍する。日本代表はアンを帰国させるがソチは全敗、アンが所属する事になった社会人チームもリンク閉鎖の危...もっと読む

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kneogf 予習せねば!冬季オリンピック、注目は羽生結弦だけじゃない|松宮宏 @hmatsumiya |小説「スマイル」。 9ヶ月前 replyretweetfavorite

icehockeystream 冬季オリンピック、注目は羽生結弦だけじゃない|小説「スマイル」。女子アイスホッケー物語|松宮宏|cakes(ケイクス) https://t.co/zoijtPnaY4 9ヶ月前 replyretweetfavorite