扉の向こうの、その向こう

【第46回】
金田の金縛りの力で、扉の前の大男を倒した。
しかし、扉の向こうに、さらわれた少女の姿はなく……。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


 亜希子の言葉に、全員が同じような体勢で、目を閉じた。今村も倣(なら)って目を閉じたが、一向に声が聞こえてくる気配はない。

「いや、なんにも聞こえないですね」

「そうですかねえ。なんか、かすかに、おなかがすいた、って言ってるような気がするんです」

 今村だけではなく、居合わせた全員が首を傾げた。唯一、聞こえるような聞こえないような、と答えたのは、彩子だけだ。

「女性にしか聞こえないんでしょうか」

「ねえちょっと、今村サンさ、アタシ、聞こえないんだけど」

「い、いや、そういうつもりじゃないんだけど」

 菜々美の冷たい視線から逃れるように、今村は金田の背後に隠れて、棚の書類などに目をやりだした。

「やっぱさ、女ってだけじゃなくて、超能力者同士だと波長が合いやすい、みたいなことがあるんじゃないの?」

「だとしたら、やっぱり近くにいるってことですかね」

 ふてくされる菜々美に、亜希子が目を閉じたまま返事をした。だが、亜希子にも、もう何も聞こえなくなったようだった。

 急に、背後から呻(うめ)き声が聞こえて、今村は思わず飛び上がりそうになった。どうやら、金田のパラライズが解けてしまったらしい。先ほどまで冷凍マグロのように固まっていた伊沢が、狂った芋虫のように暴れ出していた。だが、手足を完全に固められ、口もふさがれているせいで、さしもの伊沢も立ち上がって暴れることはできないでいる。

「みなさん、その、男を、押さえていただくことはできますか」

 サトルが、珍しく大きな声を出した。勘のいい金田と菜々美が素早く動き、暴れる伊沢を上から押さえつける。今村と彩子も参戦し、全員で上から体重を掛ける。最後に亜希子が乗っかると、伊沢が、うっ、と呻いて、動きを止めた。

「最近、太っちゃったんだけど、ダイエット成功する前でよかったわ」

 亜希子が息を切らしながら、伊沢の腰の上で笑った。全員でしっかりと体重を乗せると、せーの、という合図とともに、伊沢の顔を摑んで引っ張り上げ、一人、正面に立っているサトルに向けた。

「あなただって、子供だったことが、あるはずです」

 震える体を必死になだめながら、サトルがゆっくりと言葉を選び、吐き出した。サトルは最近まで、人の視線を恐れて、三葉食堂の二階に引きこもっていたのだと聞く。きっと、優しい心の持ち主なのだ。だから、人の頭の中を覗くと心が傷つき、精神が病んでしまう。こんな悪意の塊のような男の目を見て、果たして大丈夫だろうか、と、今村は心配になった。

「なんの罪もない、子供です。僕たちは、和歌ちゃんを、お母さんの元に帰して、あげたいんです」

 サトルは、ゆっくりとその場にしゃがみこむと、意を決したように目を見開いた。人間は、質問をされて答えない、ということはできるが、質問の内容を考えない、ということはできない。伊沢が頭に思い浮かべたものを、サトルの力で読み取ってしまえばいい。

「和歌ちゃんは、どこにいますか?」

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

ある日とつぜん「役に立たない超能力」に目覚めてしまった5人。予測不可能の傑作エンタメ!

この連載について

初回を読む
僕らだって扉くらい開けられる

行成薫

もしも突然、「超能力」に目覚めたら・・・? 誰もが一度は抱いたことがあるそんな妄想が、ある日とつぜん現実になってしまった五人。さえない人生が一変!と思いきや、どれもこれも「制約」つきで、不都合満載、トラブル多発・・・こんな能力、いった...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Tweetがありません