またキャッシュが減る?
「もうっ! いったいどうしたらいいの!」
美鈴の喚き声に、眠っていた猫が体をびくつかせ、警戒心に満ちた目で美鈴を見た。そして、おもむろに立ち上がり、店の奥へと消えていった。不穏な空気を察したのだろう。
それでも、石島はいつもと変わらず冷静で、顔色ひとつ変えなかった。
「美鈴社長、どうされましたか? さっきからこの世の終わりみたいな表情をされていますが……」
美鈴は会社帰り、久しぶりに「三毛猫茶房」に立ち寄った。御園の報告があまりにショックで、まっすぐ家に帰る気にならなかったということもあるが、正直にいうと、石島の知恵を借りたかった。
「会社の立て直しがうまくいっていない様子ですね」
石島は飲み物を差し出した。
「はっ? 注文してないよ。しかも、奇妙なくらいに緑色なんですけど」
「メロンソーダにアイスクリームを浮かべた、当店の人気商品です。煮詰まっているときは、甘いものがいちばんです」
「むしろ頭がおかしくなりそうな色しているけど……」
そういって、美鈴はおそるおそるストローに口をつけた。
「メロンの味、全然しない!」
「それはいわない約束です。四の五のいわずクリームソーダを味わうのが大人のたしなみというものですよ」
「なにそれ……でも、意外といけるかも。アイスが載っかっているのも、お得な感じがするし」
少し落ち着きを取り戻した美鈴は、事の顛末を石島に説明し始めた。
「お金の時間価値」の大切さを実感し、翌月に支払いがある注文販売をとる作戦を立てたこと。それが見事に成功した森下書房は、当面の資金繰りが改善し、経営危機を脱することに成功したこと。ところが、喜んだのも束の間、ミソじいから悪い報告があったこと……。
その日、御園から告げられた内容をかいつまんでいうと、こういうことだ。
新刊の『外国人にも伝えたい日本の文化』の注文販売が増えて、売れ行き好調により、銀行への借金を返済するメドが立った。当面は倒産の窮地を脱することはできたのだが、新たな問題が発生したという。
返品の問題である。