初速が勝負!
学校の制服に身を包んだ美鈴は、森下書房に到着すると息を弾ませながら自転車を停めた。階段を一段飛ばしにして2階にある営業部へと急ぐ。営業部長の早瀬を見つけると、すぐに声をかけた。
「早瀬さん、売れ行きはどう?」
「あっ、美鈴社長……その格好は……」
突然声をかけられ、美鈴の制服姿を見ると、一瞬言葉を失う早瀬。
うしろで1つに束ねられた黒髪、清潔感のある白いシャツ、スカートからのびたカモシカのようにほっそりとした生足。夏休み中のギャル風ファッションや明るく染められた髪の印象が強かったからか、清楚さが際立っていた。
そういえば、うちの社長は現役女子高生だったのだ……。
「ねえ、聞いてる? 売れてるの、売れてないの?」
美鈴の催促する言葉に、早瀬は冷静さを取り戻した。
「そういえば、今日は学校の始業式でしたね」
「そうなの。午前中で終わったんだけど、売れ行きが気になって、家に帰らずに出勤しちゃった」
「『外国人にも伝えたい日本の文化』のことですよね」
「そう、先週から書店に並び始めたから、今日あたりには売れ行きがわかるっていってたでしょ?」
『外国人にも伝えたい日本の文化』は美鈴が作成した注文書の効果で、通常の20倍の注文が書店から入っていた。1カ月後に入金される「注文販売」の扱いになるため、森下書房の資金繰りに大きく貢献することとなった。
とりあえずは大成功といえる成果だったが、喜ぶのはまだ早かった。
せっかく書店の店頭に並べてもらえても、お客さんに売れなければ意味がない。期待して注文販売を出してくれた書店員をがっかりさせることになるし、「売れない本」というレッテルを貼られれば、それ以上の注文は見込めず、本の寿命も縮むことになる。
だから、書店に並んでから1週間ほどが勝負。そこで初速が出なければ、他の新刊に棚を奪われ、尻つぼみになってしまう。
「実は……」