1日に200点もの新刊が入荷する書店から、受注を勝ち取るには

「この本の魅力を書店員さんに伝えたら注文を出してくれるはず!」喫茶店・三毛猫茶房でファイナンスを学んだ美鈴。森下書房の本を読みたいと思ってくれる人に届けたいと意気込む。書店から注文販売の受注を取るには、どうすればいいのか?―― 平凡な女子高生が、青春を賭けて、倒産寸前の出版社立て直しに挑む。必須のビジネス教養が一気に学べる、ビジネス小説、第12回!お正月集中連載!

リスクを取れない書店、受注がほしい出版社

翌日、美鈴と営業部長の早瀬が、青島ブックストアの店内で書棚のチェックをしていると、店長の雨宮(あまみや)が声をかけてきた。

「早瀬さん、お待たせしました」

「突然、すみません……」

早瀬は丁寧に頭を下げた。

雨宮の黒縁眼鏡と立派な白いひげがカーネル・サンダースを彷彿とさせた。本の目利きとして出版業界でも有名な人物だと、早瀬からは事前に聞かされていた。

昨日、森下書房に戻った美鈴は、営業部長の早瀬をつかまえて、早速「お金の時間価値」について説明し、「注文販売」に力を入れたほうがよいと力説した。

ファイナンスの知識を用いて説明する美鈴に、早瀬は面食らった様子だったが、やはり美鈴が予想したとおり、早瀬のリアクションは頼りないものだった。

「やるべきことはやっている」

「いっていることはもっともだが、現実は違う」

そう繰り返すばかり。

そして挙句の果てには、「いくら注文をとりたくても、書店さんが注文してくれないのだからしかたない」と突き放した。

それを聞いてカチンときた美鈴は、「じゃあ、なんで書店さんが森下書房の本を注文してくれないのか、直接聞きに行ってくる!」といって、部屋を出ていこうとした。実際、書店員さんと直接話して、どうしたら注文してくれるか聞いてみたいとも美鈴は思っていたのだ。

すると、早瀬はあわてて美鈴の行く手を阻んだ。

「勝手なことをされたら困ります。私が恥をかくことになります」

それでもかまわず部屋を出ていこうとすると、早瀬は観念し、書店に連れていくことを約束した。

おそらく書店員からきびしい現状を聞けば、美鈴もあきらめるだろうと踏んだようだ。

出版社に対してズケズケとモノをいうタイプで、出版業界に一家言をもっている雨宮を選んだのも、早瀬の作戦だったのだろう。

「早瀬さん、久しぶりだね。そちらのお嬢さんは、娘さん?」

雨宮は美鈴のほうをチラリと見ていった。美鈴はスーツを持っていなかったので、地味な紺色のワンピースを選んだのだが幼さを消すことはできなかった。

「いえ、あのお……」

早瀬がいいよどんでいると、美鈴が口を挟んだ。

「はじめまして、森下書房社長の森下美鈴です!」

ニコッとほほ笑む美鈴に対し、雨宮は目を見開き、言葉を失っている様子だった。

「きみが社長さん……こりゃ、驚いた」

いいながら雨宮はくちひげを何度もさすった。

美鈴は社長になった経緯や森下書房が置かれた現状をかいつまんで話した。

早瀬からは事前に「資金繰りが苦しくてつぶれそうなことは絶対に話さないように」といわれていたので、経営改革に社長自ら取り組んでいると雨宮には伝えた。

話をひと通り聞いて冷静さを取り戻した雨宮は、「で、今日はどういうご用件で?」とたずねた。

「私は注文販売を増やしたいんです。どうしたら書店は注文してくれるんですか?」

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