実は「ポイントを貯める」は損!?
石島はバナナスムージーを厨房から運んでくると、早速、先ほどの続きを話し始めた。
美鈴も高校の数学の授業よりも、ファイナンスは生々しいお金の話が中心なので興味をそそられる。
「ちょっと専門的な話に入っていきますが、大丈夫ですか?」
「いいよ。ファイナンスの知識は経営に必要な知識なんでしょ? なにしろ私は代表取締役社長ですから」
「ええ、決してムダにはなりません」と胸を張ってから、「まず、お金の価値には、2つの種類があります」と石島はピースサインをつくった。
「2つ?」
「『将来価値』と『現在価値』です。まずは将来価値から説明しましょう」
「うん」
「さっき100万円の複利計算の例を出しましたよね。このとき今の100万円に年利5%の利息がつくと、3年後にはいくらになりましたか?」
「115万7600円よね」
「そう、それが将来価値。今のお金を複利で運用した場合に将来どれくらいの価値になるかをあらわしたものです。つまり、現在の価格(価値)の将来における価値です」
「将来の価値だから『将来価値』ね。そのままじゃん。カンタンだよ」
「もうひとつの『現在価値』は、将来価値に対応する概念。将来のお金はあくまでも計算上の話で、先ほど50年後の1000万円は今の100万円ほど価値がないと話しました。では50年後の1000万円は現在の価値に直すといくらになるでしょう。将来のお金は現在の価値に直さなければいけません。そうして求めたものを『現在価値』といいます」
「現在のお金の価値に直したものだから、『現在価値』。これもカンタンね」
「では、3年後に115万7600円を受け取りたいとすると、年利5%の預金口座にいくら預ければいいですか?」
「100万円を3年間、5%で預けたときに115万7600円になったんだから、100万円じゃないの?」
「正解です。3年後の115万7600円の現在価値は100万円ということになります。お金は受けとるタイミングによって価値が変わってくるから、時間軸が異なるキャッシュを比較する場合は、お金の時間価値を調整する必要があるんです」
「へぇ~、そうなんだ」
「このように将来のキャッシュが現在のいくらに相当するかは、『利率で割り算する』ことによって求められます」
「利率で割り算? ちょっとむずかしくなってきたなあ」
美鈴は腕を組んで眉間にしわを寄せた。
「さっき100万円を5%の利率で預けたとき1年後にいくらになるか計算しましたよね」
「100万円×(1+5%)=105万円でしょ」
「100万円の元本に1.05(1+5%)をかけることで、1年後の将来価値を算出することができました」
「うん、それはわかる」
「1年後の105万円の現在価値を求めるときは、この計算の逆をすればいいんです」
「105万円を1.05(1+5%)で割るってことね」
そういって、美鈴は頭の中でそろばんをはじいた。そろばん1級の美鈴にとって、このくらいの計算はお手の物だ。
「現在価値は100万円だね!」
「そういうことです。美鈴さんが今計算したプロセスのことを『1年後のキャッシュを割引率5%で現在価値に割り引く』と表現します。このとき使われる利率のことを『割引率』といいます。この割引率という言葉もファイナンスでは頻繁に使われる用語だから覚えておくといいですよ」
「割引率なら知ってるよ。近くのスーパーで、3割引きセールをするときは必ず買い物に行くもの」
石島は首を横に振った。
「その割引率とは、計算のしかたが違うので、数字も変わってきます。ここではまったく別物だと考えたほうが混乱しなくていいかもしれません」
「わかった。将来価値を現在価値に直すときの利率が割引率と覚えておけばいいのね」