明日の100万円と、今の100万円。価値があるお金はどっち?

「営業の現場もわからない美鈴社長に、あれこれいわれる筋合いはありません!」営業部・早瀬に叱られてしまった美鈴。キャッシュを作れば出版社は助かるのに、どうして否定するの? 美鈴は再び「三毛猫茶房」のマスター・石島を訪ねた。―― 平凡な女子高生が、青春を賭けて、倒産寸前の出版社立て直しに挑む。「出版業界」のリアルを描き出しながら、必須のビジネス教養も一気に学べる、疾走感満載のビジネス小説、第9回!年末集中連載スタート!

お金の価値は受け取るタイミングで変わる

美鈴が事の顛末を石島に話し終わる頃には、注文したバナナスムージーはほぼ飲み終えていた。

「というわけで、せっかくキャッシュを増やすためのアイデアを思いついたと思ったんだけど、全否定されちゃって……石島さんに相談すれば、何か打開策が見つかるかなあと思って来てみたの」

石島はコーヒーカップを磨いていた手を止めると、おもむろに口を開いた。

「出版営業のことは詳しくわかりませんが、営業部長の早瀬さんは、業界の商慣習にとらわれすぎて、ファイナンスの視点が欠けているのかもしれませんね」

「また出た! ファイナンス。企業が将来生み出すキャッシュフローに注目する。つまり、未来の数字を扱うのが特徴なんでしょ」

「その通り。よく覚えましたね」

「うん、ミソじいも感心してたよ」

「美鈴社長の話を聞くかぎりでは、6カ月後に入金される委託販売ではなく、翌月に入金される注文販売に注力したほうが、ファイナンス的には正解だと思います」

「やっぱり、そうでしょ!」

美鈴は得意げに人差し指を立てた。

「突然ですが、今、100万円をもらえるのと、3カ月後に100万円をもらえるのと、どっちがいいですか?」

石島は質問を投げかけた。

「なに? なに? ホント突然だなあ」といいながら、「今100万円もらえたほうがいいでしょ。森下書房はいま、喉から手が出るほどキャッシュがほしいんだから」と悩むことなく即答した。

「なるほど。では、今100万円もらえるのと、50年後に1000万円もらえるのとでは、どっちを選びますか?」

「うーん、1000万円はすごいけど、50年後は生きているかわからないし、おばあちゃんになったら、そんなにお金使うこともなさそうだからなあ。やっぱり今の100万円を選ぶよ」

「そうですよね。ほとんどの人が美鈴さんと同じ選択をするはずです」

「いちおう私も常識人だからね」

「今の質問と回答からいえることは、50年後の1000万円は今の100万円ほど価値がない、ということです」

「ふーん」腑に落ちていない表情の美鈴。

「いい方を換えれば、明日の100万円より、今の100万円のほうが価値はあるということです」

「なんとなくわかるけど……」

「まだピンときていないようですね。じゃあ、もうひとつ質問しましょう」

「うん」

「もし私が今、100万円を美鈴社長にあげたとしたら、どうしますか? ただし、会社の借金を返すというのはナシです。普通の女子高生だとしたら」

「絶対貯金だね。私、お金貯めるのが趣味だから。通帳の数字が増えていくのって、エクスタシーを感じるんだなあ」

「貯金がエクスタシーというのはよくわからない感覚ですが、悪くない趣味ですね」

「貯金って通帳に入れておくだけでおまけもつくでしょ? 超エクスタシーだよね」

「『利息』のことですね。今は雀の涙ほどの利息しかつきませんが、利息は銀行に預けるメリットのひとつといえます」

「10円くらいのおまけでも、タダでもらえるんだからうれしいよ」

「今は大手銀行に預けると0.001%の利息しかつきません。1年間100万円を預けても10円です。でも、昔は2%ついていた時代もあったんです。100万円だと2万円ですね。定期預金だと6%というのも普通でした」

「えっ、そんなに違うの? 詐欺じゃん」

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