いざ、潜入!

【第44回】
さらわれた幼い和歌は、地元の美術館にとらわれていた。
彼女を救い出す決意をした今村たちは、潜入を試みるが……。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


 敷島美術館、メイン展示室。

 今村は、絵画や彫刻が整然と並んでいる間をゆっくりと歩き回りながら、美術品を眺めていた。眺めているふり、と言った方が、より正解に近い。目には入っていても、美術品のすばらしさなど、一つも頭に入ってこない。

 外は例大祭の初日、神輿が参道を練り歩いている真っ最中の時間帯だ。みんな祭りに夢中で、普段から閑散としている私設美術館に立ち寄ろうなどという奇特な人間はいない。館内は気味が悪いほど静まり返っていた。

 展示室の真ん中には、「津田光庵作・焼き締め大皿」が、でんと置かれている。金色の継ぎ目が網のように入った皿は、前に見た時よりも、迫力が増したような気がする。だが、今回はのんびりと美術品を眺めているような状況ではない。大皿のガラスケース越しに、展示室外のロビーにある、「STAFF ONLY」と書かれたドアを見つめる。

 その、大皿の作者である津田が、ゆっくりと扉に近づいた。扉の脇には、インターホンが設置されていて、「御用の方はボタンを押してください」と書いてある。津田の隣には、亜希子が寄り添うように立ち、何度か足の位置を変え、咳払いを一つした。緊張しているらしい。

「ごめんください。館長さんはいらっしゃいますかな」

 インターホンから、のんびりとした声が聞こえる。今村の隣には金田が、少し離れたところにサトルがいる。大きな絵巻物が飾られた展示スペースの前には、彩子と菜々美の女子高生コンビが待機していた。

 ほどなく、ピッ、という電子音と、がちゃん、という解錠音がした。扉がゆっくりと開き、小柄で真面目そうな高齢の男性が、怪訝そうに顔を覗かせる。立っている津田の顔を見ると、男は表情を緩めた。

「これは、津田先生。よくお越しくださいました。本日は、どういったご用件でございましょうか」

「ちょっと、館長さんに折り入ってお話がございましてな。祭りのついでに近くまで寄らせていただきまして」

「私に、お話ですか?」

「左様。先日、私の大皿の件でいろいろお話しした際にですな、館長さんが私の作品を大変愛してくださっているのがよく伝わりましてね」

「いや、それはもう、同郷ということもありますし、大変尊敬しております。それなのに、こちらの不手際でお皿の破損などもありまして、誠に申し訳ないことをしたと……」

 館長が、これでもかと言うほど、何度も体を折って頭を下げる。館長が、自分のせいで、という自戒の言葉を述べるたび、今村は心が痛んだ。皿を叩き落としたのは自分です、と名乗り出たい衝動に駆られる。

「まあ、過ぎたことはもうよいのです。今回はですな、もし、よろしかったら、私の作品を、もう一つ展示してはもらえないかと」

「え、それは、作品をお持ち込みいただけるということですか」

「ええ。作品を持ってまいったので、館長さんから、オーナー様に寄贈のお話を通してはくださいませんか」

 館長は、もちろんです、と、興奮気味に何度も頷き、また、頭を下げた。

「中でお話しさせていただくことはできますかな」

「もちろんです。どうぞどうぞ」

 館長は展示室に入ると、一旦ドアを閉じた。首にぶら下げたカードキーをカードリーダーにかざす。再び、電子音と解錠音が聞こえた。

「あの、そちらは、お弟子さんでいらっしゃいますか」

 館長が、亜希子に視線を移し、反射的に頭を下げる。津田が、新しい弟子でして、と、しょうもないことを言った。

「君は、ここで待っておりなさい」

「はい、先生」

 津田が、館長に連れられて、扉の内側に入っていく。そのまま、館長の手を離れた扉がゆっくり閉まろうとする。完全に閉じると、オートロック機能によって自動的に施錠される仕組みだ。施錠されてしまえば、館長が持っているカードキーがないと、扉を開けることはできなくなる。

 津田と館長が扉の内側に入ったのを確認すると、展示室にいた面々が、一斉に扉の前に集まった。亜希子が、ほんの少しつま先を出していたお陰で、扉はまだ完全に閉まっていない。

「早く」

 津田と館長の声が聞こえなくなるのを待って、金田が真っ先に扉の中へ飛び込んだ。続いて、全員が扉の内側に滑り込む。あまり開けっ放しにしている時間が長いと、きっと未施錠を知らせるブザーが鳴ってしまう。

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行成薫

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