彼女は、別格だ

【第43回】
父に認められたい一心で努力を重ねてきた喜三郎。
しかし、父は息子を最後まで認めることなく、息を引き取った。
行き場を失くした思いが、喜三郎を「ある研究」に向かわせる。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


 喜三郎は、自身の半生を記したファイルを閉じ、棚に戻した。かなり大きな棚一つを占拠する資料は、すべて、国内にいる超能力者たちの情報だ。そのほとんどは、喜三郎が遠隔透視の力を使って集めた情報だった。

 研究所と言っても、喜三郎は科学者ではない。外科的、脳科学的な研究をしたいわけではなかった。研究の目的は、「超能力の存在」を証明することだ。超能力が存在するという事実を証明するためには、懐疑的な人間を黙らせるだけの、圧倒的な力が必要になる。喜三郎のリモート・ビューイングのような、制約つきの能力ではだめなのだ。もっと強力で、センセーショナルで、そしてなにより、役に立つ能力でなければならない。

 喜三郎は、長年の研究から、かつて受験勉強の時に服用していた「脳活性化薬」を複数組み合わせることで、超能力の発露を促すことができる、ということを突き止めた。そこで、十年以上にわたって、こっそりと地域の人間に薬を服用させ、超能力者の育成を行ってきたのだ。

 薬を服用した人間のうち、超能力の発露に至るのは、数パーセント程度だ。発露したとしても、多くは、喜三郎と同じように、能力に制約や限界があった。例えば、せっかくテレキネシスの能力が発露しても、一定方向に数センチしか動かせない、という男もいた。それなら、超能力など使わなくとも、手で動かせば事足りる。役に立たない能力では、超能力者の存在を世間に認めさせることはできない。

「ねえ」

「なんだね」

「ママにあいたい」

「まだだめだ」

「どうして?」

「君が、テレパシーを自由に使いこなせるようになったら、ママを呼んであげよう」

「いつ?」

「いつになるかは、君次第だよ。まずは、私と自由に会話できるようになるんだ。その次は、もっとたくさんの人とだ」

 観察している超能力者のうち、能力に秀でたものには番号をつけ、重点的に観察を行っている。その中でも、28号の音無和歌は、別格だ。多くの超能力者は、能力の使用自体に制約や限界がある。だが、音無和歌は、制約もなく、さしたる集中も必要とせず、テレパシーを使って母親との会話を成立させていた。自身の超能力をこれほど自在にコントロールできている例は、喜三郎が見る限り、初めてだった。

 超能力は、トレーニングである程度能力を伸ばすことが可能だ。もし、和歌の能力が開花し、母親以外の人間ともテレパシーで話すことができるようになれば、「完全な超能力者」の誕生だ。不特定多数の人間に向けてテレパシーを発信し、実際に体感させる。自ら超能力を体感した者は、トリックだ、などと否定することはできないだろう。

 そうすれば、超能力の存在の証明は、成る。

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行成薫

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