──『「アラブの春』の正体』を書こうと思われた理由を教えてください。
重信 もともと「アラブの春」に関してはメディアが誤った情報を伝えたり、一般市民の感情を戦争支持の方向へリードしたことで、やがて戦争をあおる方向に向けられていったのではと考えていました。その結果、リビアでは大きな内戦になりましたし、シリアではいまでも内戦が収まっていません。
ずっとメディアをウォッチしていて、日本においても現地で伝えられている情報とはズレがあることを感じていました。
問題のある政権であっても、武力で問題を解決しようとすべきではないと思います。ですから、エジプトやチュニジアのように武器を使わずに、しかも、外からの勢力の手助けなしに政権を転覆させたことはすごいことだったと思います。その後に起きていることに対する評価はともかく、自分たちの手で武力を使わずに解決しようとしたということについては評価したいと思います。
しかし、シリアやリビアの場合は、エジプトやチュニジアとは違います。たしかに当時の政権に対する不満が国民のなかにあったのはまちがいないと思いますが、国外の勢力が、エジプトやチュニジアの「革命」に乗じて、火に油を注ぐように国民をたきつけ、武器を提供したから内戦になってしまったんです。しかも、それをメディアがあおったことで、国際世論もそれを許す雰囲気になってしまった。情報って怖い、メディアの過ちって恐ろしいと思いました。
私は普段から、いろいろな言語のメディアをフォローしたり、現地の友人たちと話したりしていたので、そのことに気づくことができたのです。日本語や英語を介した情報だけではフィルターがかかってしまうので充分ではありません。私の場合はアラブ社会で育っている点を活かすようにしているのです。この本を書こうと思ったのも、そこで得た情報を生かしたいと思ったからです。
──メイさんは中東で育って、2001年から日本に暮らしていますが、日本のメディアに接していて、実際の中東とは開きがあるとお感じになったんですね。
重信 日本と中東では距離が離れていますから、不十分な情報をもとにイメージを作ってしまうのはしょうがないところはあると思います。しかし、それだけでなく、言語や文化の違いが壁になって、ある事件や、政治的な決定の裏には必ずあるはずの理由が見えていないことがたくさんあると思います。
自分たちの文化ではこうだけれど、相手の文化では違うかも知れないというところまでは考えが及ばないことも多いと思います。欧米のメディアのフィルターを通した情報か、不十分な理解のままの報道がほとんどだと思います。
──たとえば、何か例がありますか?
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