言いたいことは、テレパシーで

【第42回】
幼い和歌をさらっていったのは、敷島喜三郎という老人だった。
このあたりの大地主で、「全日本サイキック研究所」という奇妙な組織にも関わっているらしい。
さらに、敷島自身も、超能力を使えるようで……。
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!

 —この、役立たずめが。

 —敷島家の恥さらしだな、貴様は。

 目を開けると、真っ白い部屋が目に入った。

 敷島喜三郎は、机に座ったまま、わずかな時間、居眠りをしていたことに気がついた。ぼんやりとする目をこすり、意識を取り戻す。目の前には、読みかけのファイルが置いてある。少し向こうには、シングルベッドが置いてあって、小さな女の子が膝を抱えて座ったまま、喜三郎をじっと見ていた。

「何か、言いたいことがあるのかね」

 女の子は、横に首を振り、また膝に顔をうずめた。

「言いたいことがあれば、テレパシーを使ってごらん」

「やだ」

「どうしてだい」

「ずっとやってるもん。きこえないんでしょ?」

 ふうむ、と、喜三郎はため息をつき、手元のファイルに目を落とした。ファイルナンバーは28号、名前は、「音無和歌」だ。

「ママとはテレパシーでしゃべっていただろう?」

「うん」

「じゃあ、私ともしゃべれるはずだ。テレパシーでな」

「できないもん」

「そんなことはない。君は、自由に力を操っていた。できるんだよ。できるんだ」

 真っ白な部屋は、人の感覚を遮断するためのものだ。壁には、幾何学的な凹凸が組まれていて、簡単な無響室になっている。防音処理もされていて、外部からの音も完全に遮断する。空気は徹底的に脱臭され、無臭状態が保たれている。五感を刺激するものを極力減らすと、人間は、不要な能力に割く力を減らし、必要な力を生み出そうとする。つまりこの部屋は、超能力者の能力を高めるために設計されているのだ。

 部屋の一角、鍵の掛けられた棚には、三十年間の研究の成果が詰まっている。棚には、喜三郎が把握している超能力者たちの情報がファイルに綴じられ、整理されていた。その数は、ゆうに千人を超える。

 ため息を一つつき、喜三郎は棚からファイルを一冊、取り出した。この棚の中で、最も古いファイルだ。名前の欄には、「敷島喜三郎」と書かれている。喜三郎もまた、超能力者の一人なのだ。

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shueisha_bungei 驚きとじんわりが詰まった行成薫さんの新刊『僕らだって扉くらい開けられる』、cakesで試し読みできますよ。最新回はこちらから→→ 「 3年弱前 replyretweetfavorite