漫画は作家別にまとめよう。
■石ノ森章太郎(発表当時は石森章太郎)
『にいちゃん戦車』全2巻(1970年、虫プロ商事〈石森章太郎選集〉)
1962年、週刊少年マガジンに連載。
筆者の記憶にあるもっとも古い戦車漫画がこれ。旧日本軍戦車部隊の整備員が、暴力団に殺された息子・太郎の復讐のため、廃品で手製の戦車を造ってしまうという設定で、このあたり、いかにも当時の少年漫画らしい。主人公の少年・次郎は、殺された太郎の弟。彼の乗る戦車が「にいちゃん戦車」と呼ばれるのは、次郎少年にとって兄の「生まれ変わり」的な存在だから。別称の〈タロウタンク〉も兄の名に由来する。
戦車とはいっても、実態は特殊装備と特殊能力だらけの超兵器で、通常型の戦車では束になってもかなわない。もちろん、少年漫画なので、主人公の少年は正しいことにのみこのスーパータンクを使う。自衛隊の戦車としては、ガルパン劇場版でおなじみのチャーフィーが登場する。
『サイボーグ009』第3巻「ベトナム編」(1965年、秋田書店 サンデーコミックス)
1965年、週刊少年キングに連載。
戦争を陰で煽る死の商人、〈ブラックゴースト〉。その一チームである黒ずくめのサイボーグマン・グループは、ベトナム戦争の戦火にまぎれ、超兵器の実験を行なっていた。登場する未来的な兵器のうち、2種は戦車タイプ。1種は球形に近く、多砲塔を持ち、不整地走行にすぐれ、もう1種は砲塔だけが分離して空を飛ぶ。石ノ森漫画には、権威・脅威の象徴として、けっこう戦車が登場するが、悪役としてこれだけ戦車がフィーチャーされた石ノ森作品は、ほかにはぱっと思い浮かばない。
■望月三起也
絵を見ただけでどの車種かわかるほどきちんと戦車を描いた漫画家は、この人が日本初ではなかろうか。戦車漫画の始祖といってもいいと思っている。
『最前線』全4巻(1967年、少年画報社 キングコミックス)
1963年から少年画報に連載、のちに週刊少年キングで不定期連載。
第二次大戦の欧州戦線における、米軍の日系人二世部隊の活躍を描いた戦争アクション。同系統の作品に『悪一番隊』ほかがある。装備、服装、小道具、雰囲気など、すべてが外国映画なみに充実していて、戦争アクションとしておもしろいのはもちろん、戦争の悲惨さもしっかりと描かれる。初期こそ戦車の描写が甘かったが、まだまだ資料がすくない時代で、外国映画でもいいかげんな造形のドイツ戦車が幅をきかせており、タミヤの62年版タイガータンクでさえ独特のフォルムをしていたことを思うと、むしろよくがんばったといえる。もちろん、途中から描写はどんどん精密になっていき、種類も多彩になった。やや変わりだねとしては、グスタフ/ドーラ800ミリ列車砲が登場する。「キュラキュラキュラ」という戦車の履帯走行音のオノマトペ(擬音)は、すでにこの作品の第1話から使われていた。
「大砂神」(『無敵のつばさ』1968年、秋田書店 サンデーコミックスに収録)
1967年の週刊少年マガジンに3回連載。
イスラエル独立問題を背景に描く戦争アクション。リアルタイムで雑誌で読んだ当時、巨大な「砂の滝」の登場シーンには強烈な印象を受けた。ネタバレになるのでくわしくは書かないが、元ネタのアレすらも矮小に思える、ものごっついしろものが出てきます。
『ジャパッシュ』全2巻(1972年、若木書房 望月三起也BIG ACTIONシリーズ4、5)
1971年、週刊少年ジャンプに連載。
日本に生まれた悪魔的な心を持つ少年が、しだいに日本を掌握し、独裁体制を築いていく過程と、それを防ごうとする主人公との戦いを描いた物語。なにかと寓話的でもある。自衛隊が大活躍。自衛隊に配備されたM551シェリダンが、国産の六一式戦車と肩をならべて敵と戦うさまは、とくに印象的だった。対戦車ライフルで戦車が派手に吹っとぶフィクション的描写も、強く印象に残っている。
『バサラ戦車隊』(2011年、大日本絵画)
2010年~2011年、月刊アーマーモデリングに連載。
作者も書いているように、タイトルは映画『サハラ戦車隊』のもじり。終戦前夜の満州から日本人学者を引きあげさせようとする、通称”バサラ戦車隊”の奮闘を描く。ガルパンでもおなじみ、八九式戦車が大活躍。ソ連軍戦車もいろいろと登場する。
※上記の望月漫画は、『バサラ戦車隊』以外、電子書籍で読める。なお、公認ファンサイトの「月刊望月三起也」は情報満載。作者の貴重なコメントもたくさん見られてありがたい。
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