ガルパン道ノススメ

​ケリーズ・ヒーローズ&パンツァー(前)

ガルパンがもっともっと面白くなる短期集中連載、第四回は映画「戦略大作戦」についてご紹介。

『バルジ大作戦』(1965)や『1941』(1979)など、ガルパンにはさまざまな戦争映画の傑作が引用されている。元作品への深い愛情やリスペクトともあいまって、これらのオマージュがガルパンの厚みを増すのに大きく貢献しているのはごぞんじのとおり。なかでもひときわよく取りあげられているのが、クリント・イーストウッド(ケリー役)が主演する『戦略大作戦』Kelly's Heroes (1970年6月)だ。まずはざっと、そのあらすじを記そう。

(映画公開年はすべて米国でのもの)

■あらすじ

 舞台は第二次世界大戦終盤、ノルマンディー上陸後の西部戦線。作戦失敗の責任をとらされて、中尉から二等兵に降格された主人公ケリーは、捕虜にしたドイツ軍情報将校を訊問しているうちに、敵占領地クレアモントの銀行に金の延べ棒が秘匿されていることを知る。その数、なんと1万4000本! これをこっそりせしめようと、ケリーは仲間集めをはじめるのだが、これがひとくせもふたくせもある連中ばかり。荒っぽいが有能な曹長とその部下たち、がめつい需品科の下士官、見るからにうさんくさいシャーマン戦車乗りとその仲間たち……。お宝が目の前にぶらさがっているとあって、出撃した強奪チームは破竹の快進撃をつづけ、ついには停滞していた戦局までも動かすにいたる(原題の『ケリーのヒーローたち』は、皮肉をこめてここからきている。つまり、”アンチ”ヒーローなわけ。)。幾多の激戦をくぐりぬけ、ようやく目的地に到着してみれば、そこには情報どおり、ドイツ軍守備隊とともにティーガー戦車3輌が守りを固めていた。味方の戦車はもはやシャーマン1輌のみ。はたしてケリーたちは金塊を手に入れることができるのか……?

■映画の多彩な顔

 この映画には、コメディー、ケイパー・ムービー、反戦映画、本格戦争アクションなど、さまざまな側面がある。

 ジャンルとしてはコメディーで、ひねりのきいたユーモアが満載、パロディも随所に効かせてある。味のある演出と役者陣のおかげで、コメディーとしての出来栄えはみごとの一語。

 ケイパー・ムービーそのものであることも、上のあらすじから明白だろう。念のため補足しておくと、ケイパー・ムービーとは、銀行強盗・金庫破り・金品強奪などを描いた、いわば大泥棒もの。わかりやすくいうと、『ルパン三世』がその典型だ。この映画の場合は、おそらく実話(後述)がベースになっている。もちろん、めいっぱい空想を膨らませてあることはいうまでもない。

■反戦映画?

 それなのに反戦映画? と奇異に思われる方もおいでだろうが、向こうではこの映画、同じ1970年に公開された『M★A★S★H』(1月)や、やはり同年公開の『キャッチ22』(6月)とならべて、反戦映画として語られることが多い。公開当時、アメリカはベトナム戦争の渦中にあり、反戦運動も盛んで、これらを第二次大戦に仮託したベトナム戦争批判と見ていたのだろう。

 じっさい、たとえば、登場人物のひとりを演じたドナルド・サザーランドは、「この映画は反戦映画か?」という問いに対して、はっきりイエスといっている。深刻な映画ばかりが反戦映画の手法ではないということか。

 もっとも、監督のブライアン・G・ハットンは、「いや、ちっとも反戦映画なんかじゃない、あれはコメディーさ」と、きっぱりいいきっている。それもそのはず、このコメディー路線はハットンの発案だったのである(後述)。

■至高の改造ティーガー

 コメディーとはいえ、この映画のアクション部分は、とてもその枠組みには収まらない充実ぶりだ。緊迫するシーンは緊迫し、戦闘シーンは迫力満点、戦車の描写は最高の部類に属し、独軍や米軍キャンプにも雰囲気がある。本物の戦闘車輌が多数「出演」しているのも特徴のひとつで、米軍のM4A3E4シャーマンやM3ハーフトラック、独軍のキューベルワーゲンなどの姿は、マニアには堪えられまい。シャーマンが歩兵とともに長い車列をなして行軍するシーンは、壮観の一語につきる。米軍・独軍ともに、制服、ヘルメット、ガンベルトなど、装備はすべて小道具係の造りものではなくて、本物(なかにはソ連の銃なども混じっているが)。撮影は全面ロケで行なわれ、当時のユーゴスラヴィア、現クロアチアで行なわれた。その理由は、現地に第二次大戦の兵器や装備がたくさん残っていたからなのだそうだ。

 さすがにティーガーⅠはT-34/85の改造車だが、これが歴代改造ティーガーのなかでもとびきりよくできている。ベースになったのは、前年に公開された『ネレトバの戦い』(1969)の(あまり出来のよくない)改造ティーガーながら、細部のディテールアップがすばらしいので、まるっきり別物といっていい。なにより、見せかた……というかごまかしかたがうまいので、かなり本物っぽく見える。冒頭の夜のシーンでは、一瞬、「え? 本物?」と思ったほど。


■ハットン参上!

 アクション映画として秀逸なのは、監督を務めたのがブライアン・G・ハットンだからだろう。このハットン、思わず手に汗握る戦争アドベンチャーの傑作『荒鷲の要塞』Where Eagles Dare (1968年、脚本と小説はアリステア・マクリーン)を監督し、大ヒットさせた人物なのである。

 最初の予定では、『戦略大作戦』は全2時間40分、あいだにインターミッションをはさむ戦争巨篇として計画され、The Warriors と仮称されていた。それがやがて Kelly's Warriors となり、さらに現在のタイトルへ変更されるにいたる。

 監督には当初、ドン・シーゲルが予定されていた。ドン・シーゲルといえば、のちに『ダーティーハリー』(1971)をヒットさせた名匠で、なにかとイーストウッドと縁が深い。そもそも、イーストウッドが『戦略大作戦』の主演を引き受けたのは、以前にシーゲル監督の『マンハッタン無宿』(1968)や『真昼の死闘』(1970)に主演し、同監督に深い敬意をいだいていたからなのである。ところが、当のシーゲルが『真昼の死闘』の編集でトラブルをかかえ、『戦略大作戦』の撮影開始前に降板してしまう。そこで急遽、イーストウッドが新監督に指名したのが、これも自身が出演した『荒鷲の要塞』で腕前と気心の知れたハットン監督だったというわけだ。

 ロケ地をもとめてヨーロッパ各地を見てまわり、ユーゴスラヴィアを選定したのも、スタッフとキャストの大半を決めたのも、このハットンである。映画撮影時の写真を見ると、元役者だけあって、ひときわ目を引く伊達男で、とても監督には見えない。

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ガルパン道ノススメ

中村融 /酒井昭伸

12月25日発売のSFマガジン2月号では、「最終章 第1話」が絶賛上映中の「ガールズ&パンツァー」を特集しています。これを記念して、本特集の監修を務めた翻訳家・酒井昭伸氏による特別コンテンツをおおくりします。

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コメント

ohmysatoh ケリーズ・ヒーローズ&パンツァー(前)|酒井昭伸| 11ヶ月前 replyretweetfavorite

Kloutter 懐かしいなぁ https://t.co/9l7sK9BZ34 11ヶ月前 replyretweetfavorite

Hayakawashobo SFマガジンcakes版の連続企画も第4回が更新。最終回となる後篇は明日30日(土)10時に公開の予定です。 ケリーズ・ヒーローズ&パンツァー(前)|酒井昭伸| 11ヶ月前 replyretweetfavorite