なんのためにそんなことを?

【第41回】
神社で出会った老人にもらった薬を飲んで、娘は不思議な能力に目覚めたらしい。
同じように超能力に目覚めた人間が、この町には何人もいるようだ。
いったい、老人の目的は……?
小説すばる新人賞作家・行成薫が描く、先読み不能の「超能力」エンターテインメント!


「若い頃に作品を売ったことがあるだけで、近年の容貌はわかりませんが、特徴のある眉毛はよく覚えております」

 —敷島喜三郎。

「敷島さんて、ここの地主さんよねえ」

 厨房の中から、「オバちゃん」がのんびりした口調で相槌を打った。津田の説明によれば、駅を中心とするこの辺り一帯の土地は、ほとんど敷島家のものだという。地方の名士といった人物で、地元企業や選挙区内の国会議員にも顔が利く、資産家らしい。

 また一人、挙手をする。津田が、どうぞ、と指名した。

「北島です。ええと、俺は別に、超能力者ではないです。さっき、あの野郎が変な液体を、オバちゃんのタレに混ぜてたのを見ました」

 な、と、北島は隣にいる今村に同意を求めた。今村が、そうです、とばかりに頷く。

「サトルさんは、先ほどの男の思考を読んだとおっしゃっておりましたが、男は、敷島について何か考えていたのでしょうか」

 津田が話を振ると、全員の視線がサトルに集まった。サトルは、顔を引きつらせながら下を向き、胸に手を当てて、何度か口をパクパクと開け閉めし、ようやく話し始めた。

「たぶん、その、怖がっていた、と、思います」

「怖がって?」

「失敗、したんだと思うんです。だから、老人に責められることを、すごく怖がっていました」

「つまり、ここのタレに液体を混入しろ、と敷島が男に命令し、失敗したために怯えていた、ということですかな?」

 サトルは、はい、と頷いた。

「男が、敷島とかいう人と繫がってるなら、さっきの液体は、和歌ちゃんが飲んだ薬と同じもんてことですかね」

 北島が、手近にあった瓶を開けて、中を覗き込み、においを嗅いだ。

「可能性は高いように思いますな。もしかしたら、過去、何度もタレに混入されてきたのかもしれません。その薬が超能力を引き出すものなのだとしたら、三葉食堂の客の中に、これだけの数の超能力者がいるというのも、説明がつきます」

 津田の見解に、なるほど、と一同が納得する中、非能力者の北島だけが、「なんで俺だけ」「常連なのに」としょぼくれていた。

「あの、でも、その敷島さんという人が、なんのためにそんなことをするのでしょうか」

 見えない闇の中から、少しずつ糸が手繰(たぐ)り寄せられている。その先に、和歌がいるかもしれない。希和は逸(はや)る心を抑えながら、言葉を選んだ。

「全日本、サイキック研究所」

 ぼそりと呟いたのは、金田だ。

「研究?」

 金田は、絶対に他言しないように、という前置きを入れた上で、伊沢という男について話を始めた。自身の痴漢—罪をきっかけに伊沢を捕まえた話、そして、その男が罪に問われることなく釈放されたこと。自身を、「全日本サイキック研究所」の調査員だ、と話したこと。

 そして、伊沢の身元を引き受けたのが、敷島喜三郎であるということ。

「口から出まかせを言ったのかと思ってたけど、こうなってくると、もしかしたら本当に、研究所ってのがあるのかもしれない」

「じゃ、じゃあ、その、研究所に、和歌がいるかもしれませんよね?」

 敷島が本当に関わっているのか、まだ、推測の域を出ない。けれど、三か月の間、これほどの情報が集まってきたことはなかった。希和が足を棒にして捜し回っても、警察が動いても、何の手掛かりもなかったのだ。もしかしたら、という思いが溢れて、また目の奥がかっと熱くなった。

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