もっとも売りにくい「エッセイ本」をどう売るか
(前編はこちら)
川上徹也さん(以下、川上) 新井さんは出版業界紙『新文化』のコラム「独身こじらせ系女子の新井ですが」で文才も発揮されていますが、12月に本を出されるとか。
新井見枝香さん(以下、新井) はい。『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』というタイトルで秀和システムさんから発売です。
探してるものはそう遠くはないのかもしれない(秀和システム)
川上 内容は書店の話なんですか?
新井 いえ、書店で起こった心温まる話や業界への問題提起などは一切ありません。私自身の身の回りで起こった日常エッセイです。
川上 それはまた……出版社もチャレンジャーですね(笑)
新井 タイトルも最初は『すっぽんぽん』などおもしろい系で、帯にも「カリスマ書店員」みたいなことが書いてあったのですが、嫌だと全部ひっくり返して。カリスマ書店員という言葉はそもそも死語ですし、書店員が書店のいい話を書いて、書店員たちが盛り上がる、そういったものでは本好きばかりが盛り上がって、普通のお客さんが置き去りにされてしまう気がして嫌で。
でも、エッセイって、私は最近すごく好きで読んでいるんですけど、最も売りにくい分野で。
川上 たしかに、著者のことがよほど好きでないとなかなか読まないですよね。
新井 そうなんです。有名であることが必要ですし、加えてタレントさんとかは別にして、例えば売れっ子の作家さんでも今はエッセイ集ってなかなか売れないんです。小説の10分の1とかしか売れない。でも実はエッセイ集って読みやすいんですよ。
川上 そういや僕も昔は読んでいたけど、最近読んでないですね。
新井 売れないと思われているから初版部数も少ないし広告なども出ないので、なかなか目につくこともない。売りたかったエッセイがいっぱいあるし、チャレンジもしたけど、なかなか結果が出なくて。だからこそ、自分の本で実験してみようと。
川上 実験なんですね?
新井 そう、出版社には悪いんですが(笑)
川上 おもしろいですね。たしかに、一般的な意味でのマーケティング的には売れる要素まったくない(笑)
新井 そうなんです。 極めて売りにくいエッセイというジャンル、よくわからないタイトル、無名の著者、ビジネス書のイメージが強い版元。売り込むべき要素が何もないわけですから、逆に言うと何を出していったら売れるのか、どういったことが刺さるかというのがよくわかると思うんです。
川上 一般的に言えば売れる要素がないからこそ、純粋に売る実験ができる。発想が素晴らしくおもしろいですよね。化けそうな予感がします。アイデア出しますんでぜひ言ってください。僕自身も何が原因で売れる、売れないかをもっと究明したいなと思っています。
POPや置く場所で売れ行きはこんなに違う
新井 今、三省堂書店の営業本部にいるんですが(この対談収録の後、三省堂書店神保町本店文庫担当に異動)、POPを私が直接付けるのと、送って付けてもらうのとはではまったく効果が変わってくるんですよ。
川上 同じPOPでですか?
新井 そう。同じPOPでも付け方によって全く効果が出ない場合も多いんです。普通に付けるとサクッて差して90度にささるんですけど、私は一回二回折って、こういうちょっと飛び出る感じにするんですよ。そうすると、こうだと絶対目に入らないんだけど、二回折るとこうなって、本を置いた時にまず目に入るという……。
(新井さんがつけたPOP)
(横から見た写真。角度をつけて、目に入りやすいようにしている)
川上 面白い!
新井 あと、私は、絶対掃除するんですよ。ポップって一日置くだけでホコリがうっすら乗ってしまうので、そうなったとたんに売れなくなる。
川上 へぇー。
新井 また、本の場所を動かすことも大切ですね。
川上 毎日ですか?
新井 そう。すごく動かします。場所を変えるだけで売れ行きが違ってくるんです。
川上 それはなんでなんでしょうか? 同じお客さんが来るから飽きさせないため? それともその本に適した場所があるとかっていうことなんですか?
新井 両方ですね。毎日来る人もいます。でもたまたまその日来ただけでも、一週間ずっと同じ場所にあったものと、今日そこに出たものって、やはり見え方が違うみたいなんです。
川上 すごいなあ。そういうのは現場にいないと、なかなか言えないことだから、思わず嫉妬してしまう(笑)。 面白いですね。
新井 ほんと面白くて。本を置く場所も「この本はここだ」みたい場所があって、うまく決まるとほんの数時間で数冊売れることもある。ただそれを言語化できないので、誰にも教えることができないんですけど。
新井さんが「売りたい本」を置く場所
川上 法則的なことはあるんですか?
新井 作家の中山七里さんとすごく仲良くさせていただいているんですが、有楽町店にいた時に、実は毎日来ていただいていたらしいんですよ。私が、本が入って、出すのを、ずっと陰で見ていたらしいんです。
川上 (笑)
新井 その時に、中山さんに言われたんですが「新井さんはいつも一番売りたい本を