「光恵ちゃんは、鳩のフンが落ちてきたことについて、どうして、自分の運が悪いせいだって思うの?」
「え?」
「自分にだけ落ちてきている、って思っているの?」
「え」
「他の人にも同じくらい落ちてきているかもしれなくない? どうして自分にだけ特別多く鳩のフンが落っこちてきている、って思いこんでいるの?」
「!」
考えたこともなかった。どうして? どうしてだろう。なんて答えればいいかわからず、光恵は言葉に詰まった。どうしてかはわからない。でも、こんなに鳩のフンをくらうことが普通だとは思えない。根拠はないけれど、そんな話は聞いたことがないし。
「いや、でも、他の人は、こんなに鳩のフンくらっていないと思うし……そんな話、聞いたことないし……」
「光恵ちゃんは、人に話しているの? 今日くらったこと、このあと、誰かに話す? 今月の過去2回の鳩のフンのこと、誰かに話した?」
「え、いや、話していないです。私、友達が少ないから、話す相手がいないというのもありますが」
「じゃあ、みんな、話さないだけかもしれないよね。他人と比較しないと、自分だけが特別そうなのかはわからないことだから。鳩のフンをこのくらいくらうのが皆もそうだとしたら、光恵ちゃんだけが特別に運が悪いってわけじゃなくて、普通だよね」
「まあ……たしかに……」
「でもね、私はいろんな人と鳩のフンの話をしたことがあるから知っているのだけど、光恵ちゃんが思っている通り、鳩のフンを月に3回くらうのは、普通ではないよ。人より、かなり多い」
「ですよね!! やっぱり私って運が」
「でもね、それは運のせいじゃないよ」
「え?」
「光恵ちゃん、最初に鳩のフンをくらった後に、もう二度とくらわないように何か対策した?」
「え?」
「どうして今日、くらうハメになっちゃったのか、原因を解析したりした?」
「……!」
「他の人が、月に3回も鳩のフンをくらわないのは、一度くらったらその時点で、もう二度とそんなことが起こらないように対策を打つからだよ。ちなみに、その3回って同じような場所だったりする?」
「あ、はい、そうです……同じ通りです」
「だったら、もうその道を通らないようにするとか、どうしてもその道を通る必要があるなら日傘をさしてみるとか、注意深く地面を見ながら歩いてフンが落ちているところは避けるようにするとか、鳩がフンをしやすい場所の傾向を調べるとか、そういうこと、何かした?」
「いえ、何も……」
「人生で1回くらいは、誰でも鳩のフンをくらっているよ。私も、あるし。それくらいは普通のこと。そしてそれは避けられない。最初の1回目はね。やっぱり一度は経験しないと、まさかくらうとは思わないから鳩のフン対策をするって頭がないからね。
でもね、立て続けに起こるのは、仕方ないことではない。自分のせいだよ。くらわない対策をとっていないせい」
鳩のフンをくらわない対策。考えたこともなかった。くらってしまうのは運が悪いからであって、どうにかできることだと思ったこともなかった。
「あと、ブスでデブの遺伝子の家系に生まれたこと。これは運が悪いというよりは、普通だと思うよ。だって、生まれつきの美人なんて、世の中の1割くらいじゃない?」
「え……」
「だってほら、クラスにそんなにたくさん、可愛い人っていた? 思い出してみて。思い出せないなら、今日おうちに帰ってから卒アル見てみて。9割はブスとブサイクだよ(笑)」
「たしかに……デブはともかく、顔は、みんなそうでもなかったかも……?」
「うん。だから、美人の遺伝子を持って生まれてこれた人がすごくラッキーなのはたしかだけど、それって超少数派で、そうじゃない方が普通だよね。運が悪いっていうか普通」
「ハナコさんは、ラッキーでしたね……」
「なんでそう言いきれるの?」
「え? だって、美人に生まれているから……」
「生まれつきの美人だって、どうして言いきれるの? 整形かもしれなくない?」
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