なんで私ばっかり……運が悪すぎる25歳女の鬱憤

王生際ハナコがあらゆる悩みを解決していく、実用エンタテイメント小説『人生の作戦会議!』。ケース10は、運の悪さに悩む、光恵(25歳)のお話です。

つくづく私は運が悪い。つい先ほどカーディガンの右肩に落とされた鳩のフンをカフェのトイレの洗面台で洗い流しながら、光恵は泣きたい気持ちになっていた。

ついていない人生なのだ、ということは、小学1年生の時に自分がブスであることを自覚した時から思いはじめた。こんなにブスでデブな遺伝子の家系に生まれた時点で、私はすごく運が悪い。

小学3年生の時のクラス替えで、みんなから嫌われている性格の悪い先生のクラスに振り分けられてしまった時にも、運のなさを痛感した。もっといい先生が担任だったら、いじめにあった時にちゃんと対処をしてくれて、楽しい学校生活を送れたはずなのに。

中学へ上がっても、高校へ上がっても、光恵の学校生活にはいつもいじめがつきものだった。それもこれもいい先生に当たらなかったせいだ。

いじめだけではなく、その運の悪さは受験においても発揮された。

裕福とはいえない家庭で育った光恵は塾などに通わせてもらえなかったため、受験の時には独学で必死に勉強をがんばった。それなのに、受験前日にインフルエンザにかかった。高校受験の時も、大学受験の時もだ。それで結局、すべり止めの学校しか受験できなかった。

大人になってからも不運は続いた。まず、就職に失敗した。せっかく大学まで出たのに、光恵の代は就職氷河期で、どこからも内定がもらえなかった。こんな時代に生まれてしまったせいで。そう思った。時代が就職氷河期じゃなかったら、どこかしらから内定をもらえていたはずなのに。それで結局、派遣の仕事をするしかなかった。

そんな社会人生活でも、運の悪さはいかんなく発揮された。派遣先がブラック企業だったり、性格の悪い人がいる部署にあたってしまうことが多く、学生時代と同様に、よくいじめられた。

仕事だけじゃなく、私生活も散々だった。引越し先では、隣人トラブルが絶えなかった。私が住むアパートは、いつも住人の質が悪い。

そして今日は鳩のフンだ。こんな風に鳩にフンを落とされるのは、今月だけで3度目だ。

幸い、カーディガンについた鳩のフンは綺麗に落とすことができた。すぐに洗った甲斐があった。

洗面台を使いたくて、とっさに入ったカフェだったが、このまま何も注文せずに出て行くのは気が引ける。光恵はお茶を飲んで行くことにした。

席をとり、メニューの写真を見て惹かれた生クリームがたっぷり乗ったカフェモカを注文する。生クリームの上にはふんだんにチョコレートソースがかけられていて、光恵好みだった。

とくにお茶するつもりで来たわけでもないので、オーダーを終えるとさっそく手持ち無沙汰になった。それで店内をグルリと見渡した。

「あなたの人生の作戦会議をします」

期間限定ドリンクの張り紙の並びに、妙な張り紙があることに気づいた。何あれ? 人生の作戦会議?

光恵が考えていると、ウェイトレスがカフェモカを運んできた。

「お待たせいたしました、アイスカフェモカになります」

「あ、ありがとうございます。あの……」

「はい」

「あの張り紙、なんですか? あなたの人生の作戦会議をします、って」

こんな風に、気になったことをすぐに人に訊ねるのは光恵らしくないことだった。しかし、今日の光恵は、今月三度目の鳩のフンによって追いこまれていた。こんな人生もう嫌だ。心底そんな気分だった。

「解決したいお悩みが、おありでしょうか?」

すると、ウェイトレスにそう訊かれた。

「えっ……えーと……悩みを、解決してくれる場所なんですか?」

「そうですね」

「……どんな悩みでも?」

「そうですね。過去に、解決できなかった悩みはないと聞いております」

「へぇ……」

訊いてみたものの、その先のことは考えていなかったので間抜けなあいづちになってしまった。

どうしよう。私はどうしたいんだろう、どんな所なんだろう。得体が知れなさすぎて、これ以上突っこんだ質問をすること自体にも勇気がいる。訊くだけ訊いて「ああ、そうなんですね」で終わらせるのも気まずい。でも気になる。どうしよう。

光恵がそんなことを考えていると、その様子をじっと見つめていたウェイトレスがエプロンのポケットからメモをとり出し、何かを書きこんで、手渡してきた。

「もし何かお悩みがあるようでしたら、ここを訪ねてみてください。必ず、解決してくれると思いますよ」

「王生際ハナコ作戦会議室……?」

「こんにちは、王生際ハナコです」

1時間後、光恵は王生際ハナコ作戦会議室を訪れていた。今日は本当は洋服を買いに行こうと思っていたのだが、鳩のフンに襲撃されたことですっかりその気が消失してしまい、それにカーディガンが濡れてしまったから電車に乗るような距離を移動する気にもなれなかった。

それで、行くとも行かないとも決めずに、ウェイトレスに渡されたメモに書いてある住所を調べてみたら、その場所はカフェからすぐそばにあるらしかった。

空っぽになったカフェモカのグラスをしばらく見つめて、気が遠くなるほど「どうしよう」と悩んだ後、行くか行かないかは置いておいてとりあえず料金システムなどを訊いてみようと思い立った。メモに書かれていた番号に電話をしてみると、「今週はもうすべてご予約で埋まっているのですが、つい今しがた1件だけキャンセルが出ましたので、この後すぐならご案内できますよ」と言われ、気づいたら予約をとっていた。

「あ、えっと……武田光恵です……よろしくお願いします」

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人生の作戦会議!ーなんでも解決しちゃう女、王生際ハナコ

下田美咲

「恋愛がうまくいかない」「仕事で成果が出ない」「自分に自信がない」「運が悪い」など、あらゆる悩みを王生際ハナコが解決します! 占いでも、カウンセリングでもない、「人生の作戦会議」とは? cakes人気連載「下田美咲の...もっと読む

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toyoshima_kome 単純に面白い。 次回、どう展開するのか楽しみ。 / (cakes(ケイクス)) https://t.co/wUTXvQ0lpf #NewsPicks 3年弱前 replyretweetfavorite

moxcha "ブス"の顔が"美人"設定のハナコよりかわいいのはこれいかに。 3年弱前 replyretweetfavorite

HHIKARI7 悪いことばかり覚えている人生は歩みたくないなー。 3年弱前 replyretweetfavorite